
1. ベリルとは?
エメラルド、アクアマリン、モルガナイト。
天然石に詳しくない人でも、一度は耳にしたことのある名前ではないでしょうか。
色も名前もまったく異なるこれらの石ですが、実はすべて「ベリル(Beryl/緑柱石)」という同じ鉱物です。
ベリル(緑柱石)
化学式:Be₃Al₂Si₆O₁₈
結晶系:六方晶系
色:無色、緑色、青色、黄色、ピンク色など
モース硬度:7.5~8
そしてベリルは、
サイクロケイ酸塩(環状ケイ酸塩)
を代表する鉱物のひとつです。
今回はベリルを通して、これまで詳しく取り上げてこなかったサイクロケイ酸塩の構造について考察していきます。
2. サイクロケイ酸塩とは?
ケイ酸塩鉱物の基本となるのは、
SiO₄四面体
でした。
中心にSi(ケイ素)があり、その周囲を4個のO(酸素)が囲んだ構造です。

これまでにも、SiO₄四面体のつながり方によって、ケイ酸塩鉱物がいくつかのグループに分類されることを見てきました。
たとえば輝石では、SiO₄四面体が一方向につながった単鎖状構造(イノケイ酸塩)。
角閃石では、2本の鎖がつながった複鎖状構造(イノケイ酸塩)。
そして雲母では、SiO₄四面体が平面的に広がった層状構造(フィロケイ酸塩)を作っていました。

では、ベリルの場合はどうでしょう?
ベリルでは、
SiO₄四面体が輪になるようにつながっています。

このようにSiO₄四面体が環状につながるケイ酸塩鉱物を、
サイクロケイ酸塩(環状ケイ酸塩)
と呼びます。
ベリルは6個の四面体で環を作るため、これを六員環(ろくいんかん)と呼びます。
サイクロケイ酸塩には、六員環のほかに、

三員環(さんいんかん)
ケイ酸イオン:[Si₃O₉]⁶⁻
代表例:ベニトアイト(Benitoite)
四員環(よんいんかん)
ケイ酸イオン:[Si₄O₁₂]⁸⁻
代表例:パパゴアイト(Papagoite)


九員環(きゅういんかん)
ケイ酸イオン:[Si₉O₂₇]¹⁸⁻
代表例:ユーディアライト(Eudialyte)
※ただし三員環も併存する複雑な構造を持つ
などがあります。
六員環はサイクロケイ酸塩のなかでも、特によく知られた構造で、ベリルやトルマリンなど天然石市場で広く認知されている鉱物に見られます。
六員環のケイ酸イオンは、
[Si₆O₁₈]¹²⁻
です。
3. どうして「Si₆O₁₈」になるのか?
ここで、ベリルの化学式をもう一度見てみましょう。
Be₃Al₂Si₆O₁₈
六員環なので、Siが6個、Oが18個あります。
ところが、SiO₄四面体を単純に6個並べれば、
Si₆O₂₄
になるはずです。
なぜOが24個ではなく、18個なのでしょうか?
これは、SiO₄四面体どうしが O(酸素)を共有しているためです。
六員環だけでなくサイクロケイ酸塩では、それぞれのSiO₄四面体が、両隣の四面体と酸素を分け合っています。

この共有している酸素を1/2個とカウントすると、
Si + O + O + O/2 + O/2
= SiO₃
になるため、サイクロケイ酸塩のSiO₄四面体は、実質 SiO₃ に相当します。
その結果、6個のSiO₄四面体では、
SiO₃ × 6
= Si₆O₁₈
という計算になります。
つづいて、電荷についても確認してみましょう。
サイクロケイ酸塩のSiO₄四面体は、
実質 SiO₃
Si(ケイ素)は4価の陽イオンなので、
Si⁴⁺ = +4
O(酸素)は2価の陰イオンなので、
O²⁻ × 3 = −6
したがって、
4 − 6 = −2
となり、組成上の電荷は、
SiO₃²⁻
に相当します。
ゆえに、六員環のケイ酸イオンは ×6 で、
[Si₆O₁₈]¹²⁻
となります。
三員環:[Si₃O₉]⁶⁻
四員環:[Si₄O₁₂]⁸⁻
九員環:[Si₉O₂₇]¹⁸⁻
それぞれのケイ酸イオンついても同様に、×四面体の数で求められます。
つまり、
環を作るSiO₄四面体の数をnとすると、
SiO₃²⁻ × n
で表せるので、
サイクロケイ酸イオン:[SiₙO₃ₙ] ²ⁿ⁻
という一般式が成り立ちます。
4. BeとAlは?
ここまで、ベリルの結晶構造の根幹である Si₆O₁₈の環(六員環)をみてきました。
では、残りの構成要素である、
Be₃Al₂
の部分は、どうなっているのでしょう?
Beはベリリウム、Alはアルミニウムです。
まず、Be については、SiO₄四面体 と同じように4個の酸素に囲まれ、
BeO₄四面体
を作ります。

一方、Al は6個の酸素に囲まれた、
AlO₆八面体
を形成します。

※四面体や八面体は、中心のイオンを周囲の酸素がどのように囲んでいるか(配位)を、多面体として表したものです。
実際にこのような「面」が存在しているわけではありません。
そして、6個のBeO₄四面体と6個のAlO₆八面体は交互につながり、大きな環状配列を作っています。
このとき、BeO₄四面体とAlO₆八面体は、稜を共有して結合しています。

多面体の頂点は酸素原子を表しているため、「稜を共有する」とは、その稜の両端にある2つの酸素原子を共有することを意味します。
ここでは便宜上、これを「Be–Al 12員環」と呼びます。
Be–Al 12員環は、隣り合う環ともつながり、平面上に展開しています。

ゆえに、各々のBe四面体とAl八面体は、隣接する環にも属していることになります。

よって、Be–Al 12員環に含まれる多面体は、実質的にはBe四面体が1/2、Al八面体が1/3にカウントされ、
BeO₄四面体 × 6 × 1/2 = Be₃O₁₂
AlO₆八面体 × 6 × 1/3 = Al₂O₁₂
という計算になります。
したがって、1つの環あたりの構成数は、
Be₃Al₂O₁₂
に相当します。
※BeとAlは同じ酸素を共有しているため、O₁₂は重複して加算しません。
なお、このBe–Al 12員環(Be₃Al₂O₁₂)の酸素はすべて SiO₄六員環とも共有しています。
ベリル全体で考えると、六員環の Si₆O₁₈ がすでにこれらの酸素を含んでいるため、やはり重複して数えません。
つまり、化学式に反映されるBe–Al 12員環の元素は、
Be₃Al₂
のみとなります。
では、この部分の電荷を考えてみます。
Be(ベリリウム)は2価の陽イオンなので、
Be²⁺ × 3 = +6
Al(アルミニウム)は3価の陽イオンで、
Al³⁺ × 2 = +6
よって、
Be₃Al₂ = +12
です。
これが、六員環のケイ酸イオン [Si₆O₁₈]¹²⁻ とちょうど釣り合って、
Be₃Al₂Si₆O₁₈
というベリルの基本的な化学組成となります。
この2つの環、SiO₄六員環とBe–Al 12員環はどのように結合しているのでしょう?
六員環との結合
ベリルの結晶構造の全体像は、下の図のようになっています。

わかりやすく層として捉えると、Be–Al 12員環の平面層とSiO₄六員環が平面的に並んだ層が、交互に重なるような構造をとっています。
ただし、SiO₄六員環どうしは直接結合しておらず、Al–Be12員環を介して立体的に構築されています。
では、具体的に見ていきます。
先に示したSiO₄の六員環図は、サイクロケイ酸塩の環状構造をわかりやすく示した一般的な模式図です。

これをベリルの結晶構造にあてはめて、SiO₄四面体の向きを反映させたものが下の図になります。
ポイントは、四面体の頂点である酸素の位置です。

六員環の結合に関わらない外側の2つの酸素は、上下にほぼ垂直に並んでいます。
そしてこの酸素が、上下のBe–Al 12員環との結合に使われます。
つまりこれが、六員環と12員環で共有している酸素です。

上から見ると、

六員環は、Be–Al 12員環よりも環が小さいので内側に位置し、さらに、上下の六員環で結合位置がずれているため、互い違いになっています。
5. ベリルには「チャンネル」がある
そして、ベリルの結晶構造には、もうひとつ大きな特徴があります。
先ほど説明した構造を振り返ると、SiO₄六員環の中央には空間があるのがわかります。
この空間は結晶の縦方向(結晶学でいうc軸方向)に沿って連続し、細長い通り道を形成しています。
このように結晶内部を貫く空間を「チャンネル」と呼びます。

では、このチャンネルには、どのような意味があるのでしょうか。
実は、チャンネルは単なる空洞ではありません。
その内部には、
水分子(H₂O)
ナトリウムイオン(Na⁺)
セシウムイオン(Cs⁺)
などが取り込まれることがあります。
つまり、ベリルは結晶の基本構造を形成する元素だけでなく、その内部の空間にも別の成分を保持することができるのです。
チャンネルに取り込まれた成分は、ベリルを構成する必須成分ではないため、通常、理想化学式 Be₃Al₂Si₆O₁₈ には含まれません。
しかし、ただ不純物として入り込んでいるだけではなく、結晶全体の電荷バランスを保つ役割を担う場合もあります。
例えば、ベリルの結晶構造内で元素の置換によって電荷のバランスが崩れた場合、チャンネル内に取り込まれたNa⁺などの陽イオンが、その不足を補うケースなどです。
こうした電荷補償は、次にみるベリルの発色に関与する元素の置換でも起こり得ます。
6. 色の違うベリル
純粋なベリルは基本的に無色です。
しかし天然では、結晶中に微量の元素が含まれることで、さまざまな色になります。
そして、その色によって、
エメラルド
アクアマリン
モルガナイト
など、異なる名前で呼ばれています。
ここで注意したいのは、これらが基本的に別の鉱物種ではないということです。
すべて、
ベリルという鉱物の変種
です。
これは、
石英 → アメジスト、シトリン
などと同じような関係と考えると分かりやすいでしょう。
では、代表的なベリルの変種を見ていきます。
エメラルド

ベリルの中でも、おそらく最も有名なのがエメラルドでしょう。
エメラルドは、緑色~青緑色を示すベリルの変種です。
その緑色には、主に
Cr(クロム)や V(バナジウム)
が関係しています。
ベリルの基本構造では Al³⁺ が入っている位置に、Cr³⁺ や V³⁺ が置き換わって入ることがあります。
特に、
Al³⁺ ⇄ Cr³⁺
はどちらも3価なので、置換しても電荷そのものは変わりません。
このCrやVによる光の吸収によって、エメラルド特有の緑色が生まれます。
この点は、前回取り上げたフックサイトと少し似ています。
フックサイトも、白雲母のAl³⁺の一部をCr³⁺が置き換えることで緑色に発色していました。
鉱物の構造はまったく異なりますが、
Al³⁺の位置にCr³⁺が入る
という点では共通しています。
アクアマリン

青色~緑青色のベリルが、
アクアマリン
です。
アクアマリンの発色は主に、
Fe(鉄)
が関係しています。
ただし、アクアマリンの発色はエメラルドほど単純ではありません。
Feには Fe²⁺ と Fe³⁺ という異なる価数があり、その状態や結晶中での位置、それらの相互作用などによって、青色から緑がかった青色までさまざまな色合いが生まれます。
天然のアクアマリンには緑色味を帯びたものも多く、加熱処理によって黄色~緑色の成分を弱め、より青色に見せる処理も広く行われています。
モルガナイト

ピンク色~橙色を帯びたピンク色のベリルが、
モルガナイト
です。
その発色には主に、
Mn(マンガン)
が関係しています。
エメラルドのCr、アクアマリンのFe、モルガナイトのMn。
同じベリルという鉱物でも、結晶中に含まれる微量元素が変わることで、これほど異なる色を示すわけです。
ヘリオドール

黄色~黄金色を示すベリルは、
ヘリオドール
と呼ばれます。
「ゴールデンベリル」や「イエローベリル」という名称が使われることもあります。
この黄色系の発色には、主に Fe³⁺ が関係しています。
ヘリオドールとアクアマリンは、同じ鉱床から産出することがあり、さらに同一の結晶内に両方の色が現れることもあります。
その理由は、どちらも主に鉄(Fe)が発色に関与していて、鉄の価数や結晶内での存在位置、光の吸収特性などの違いによって、青色から緑色、黄色まで色が変化することによります。
つまり、同じ環境で形成されたベリルでも、成長過程で鉄の状態などが変われば、色の異なる部分が形成されることがあるわけです。
ゴシェナイト

ほぼ無色透明のベリルは、
ゴシェナイト
と呼ばれています。
ベリル本来の理想的な状態は無色なので、ある意味ではベリルそのものに近い色といえます。
レッドベリル

赤色を示す非常に珍しいベリルが、
レッドベリル
です。
こちらも Mn が発色に関係していますが、モルガナイトとは異なる色調を示します。
また、レッドベリルは一般的なペグマタイト産ベリルとは異なる特殊な地質環境でも形成されることが知られています。
このベリルの形成環境について、次に見ていきます。
7. ベリルはどのように作られる?
ベリルを象徴する元素は、Be(ベリリウム)です。
実は、この元素の名前は鉱物のベリル(Beryl)に由来しています。
ベリリウムは一般的な岩石中に大量に存在する元素ではありませんが、花崗岩質マグマが変化していく過程で残された残液に濃集することがあります。
すなわち、以前の「火成岩とペグマタイト」で扱った
花崗岩質ペグマタイト
でよく形成される鉱物です。
実際、ベリルを含む花崗岩質ペグマタイトは世界各地で知られています。
ただし、ベリルはペグマタイト以外の環境で形成されることもあり、その一例がレッドベリルです。
レッドベリルは、主に流紋岩(りゅうもんがん)という火山岩の割れ目などに形成されます。
いくつもの特殊な条件がそろって初めて形成される、非常に希少なベリルです。
8. エメラルドの希少性
レッドベリルの希少性は、産地が極めて限られ、産出量そのものが非常に少ないことによります。
その点、エメラルドは世界中で広く産出されます。
ただし、その形成には特殊な地質条件が必要で、レッドベリルを除く一般的なベリルの色変種の中では希少といえます。
その理由は、ベリルの構成元素 Be(ベリリウム) と、エメラルドの発色に関わる元素 Cr(クロム)や V(バナジウム)では、濃集しやすい岩石が異なるためです。
前述したように Be は、
花崗岩質ペグマタイト
などに濃集しやすい元素です。
一方、Cr や V は、
苦鉄質 ~ 超苦鉄質岩
などに多く含まれる傾向があります。
そのため、一般的な花崗岩質ペグマタイトの内部だけではエメラルドは形成されにくく、例えば、ベリリウムを含むペグマタイトと、クロムなどに富む苦鉄質〜超苦鉄質岩が接する境界付近など、その形成環境は限られています。
また、それらの岩石が隣接しているだけでは十分ではなく、熱水などの流体による元素の移動や化学反応が起こるための温度や圧力などの条件が整う必要があります。
このように、異なる岩石に由来する元素が同じ場所に集まり、ひとつの結晶に取り込まれることで、ようやくエメラルドが形成されるのです。
この点は、前回のフックサイトで登場した超苦鉄質岩とCrの話につながるところがあります。

ただし、エメラルドの産状はすべてこのタイプというわけではありません。
よく知られているコロンビアのエメラルドなどは、堆積岩の内部を循環した高温・高塩濃度の熱水によって形成されたと考えられています。
重要なのは、
Be(ベリリウム)と Cr(クロム)や V(バナジウム)が地質作用によって同じ場所に集められること
です。
こうした形成条件の特殊性に加えて、エメラルドは宝石として品質面での希少価値を持っています。
鮮やかな緑色と高い透明度を兼ね備えた良質なものは少なく、その美しさと希少性が、古くから人々に珍重されてきた理由のひとつとなっているのです。
9. ベリルの結晶系
ベリルは六方晶系に属する鉱物で、六角柱状の結晶を形成することがよくあります。

しかし、六方晶系だからといって必ず六角柱になるわけではなく、その逆も同様です。
ただ、ベリルの場合は、結晶内部の原子配列が持っている対称性が外形にも反映されているため、結晶系と外形の関係を理解するうえで、わかりやすい例といえます。
ベリルの結晶構造を上から見ると、Be–Al 12員環がハニカム状に規則正しく広がっています。
この構造には、中心軸の周りに60°回転させても同じ配置になる「6回回転対称性」があります。
そして、この対称性が結晶の外形に影響し、60°ずつ向きの異なる6つの側面が発達すると、六角柱状の結晶になります。
10. まとめ
今回は、サイクロケイ酸塩を代表する鉱物としてベリルを見てきました。
ベリルでは、
6個のSiO₄四面体
が酸素を共有しながらつながり、
[Si₆O₁₈]¹²⁻
という六員環を作っています。
そこに、
BeO₄四面体とAlO₆八面体
が組み合わさることで、
Be₃Al₂Si₆O₁₈
というベリルの結晶構造が作られています。
さらに、その基本構造の中へ Cr、V、Fe、Mn などの元素が取り込まれることで、
エメラルド
アクアマリン
モルガナイト
ヘリオドール
など、異なる色を持ったベリルが生まれます。
このような天然石同士の思いもよらぬ関係性が見えてくるのも、結晶構造から鉱物を理解する面白さのひとつではないでしょうか。

