【第23回】フックサイト

フックサイト(含クロム白雲母)

化学式:K(Al,Cr)₂AlSi₃O₁₀(OH)₂
結晶系:単斜晶系
色:淡緑色〜エメラルドグリーン
モース硬度:2〜2.5

フックサイト(Fuchsite)を最初に一言で定義すると、

「クロム(Cr)を含むことで緑色になった白雲母」

です。

独立した鉱物種ではなく、「白雲母の変種」として扱われます。


名称は、ドイツの化学者・鉱物学者 ヨハン・ネポムク・フォン・フックス(Johann Nepomuk von Fuchs) にちなみ、カール・F・エミール・フォン・シャフホイトル(Karl F. Emil von Schafhäutl)が1842年に命名しました。

白雲母を母体とする鉱物ですが、前回のレピドライトに比べると、かなり理解しやすい構造です。

まず、白雲母の基本組成は、

白雲母:KAl₂AlSi₃O₁₀(OH)₂

で、2八面体型の構造です。

八面体席3つのうち2つを Al³⁺ が占め、1つが空位になっています。


フックサイトでは、この Al³⁺ の一部を、

Al³⁺ → Cr³⁺

という形でクロムが置換します。


したがって、化学式は、

フックサイト:K(Al,Cr)₂AlSi₃O₁₀(OH)₂ ※一般式

のように Al と Cr が八面体席を分け合う意味の一般式で表されます。

このフックサイトの一般式は、クロム置換のある白雲母を包括的に表したものになるため、Cr の量には幅があります。

ただし、フックサイトの Cr 含有量について明確な範囲は定められていませんが、実際には、(Al,Cr)₂ に含まれる範囲すべてが「フックサイト」に相当するわけではありません。


Cr が Al よりも多くなる範囲には、現在では「クロムフィライト」という独立した鉱物種があります。

クロムフィライト:KCr₂AlSi₃O₁₀(OH)₂ ※端成分

クロムフィライトの理想的な端成分は、2つの八面体席が完全に Cr へ置き換わった形です。


反対に、全く置換のない白雲母(Al₂)をもう一方の端成分とするなら、フックサイトはこの両者の固溶体系列のなかに位置します。

慣用的には、ある程度 Cr に富んだものを「フックサイト」と呼ぶことから、Al と Cr が同程度になる付近で、かつ Cr が Al を超えない範囲に相当すると考えるのが妥当です。


化学組成の点から見れば、Cr が主要成分となるクロムフィライトのほうが、“クロム雲母”という名称から受ける印象に近い組成といえます。

同様に、Cr 含有量の点や鉱物種として「白雲母の変種」であることを踏まえると、フックサイトを “含クロム白雲母” と表現するほうが適切であるという見方もできます。

とはいえ、「クロム雲母」という名称は、従来よりフックサイトなど Cr を含む雲母に広く使われてきた慣用名であるため、現在でも「フックサイト=クロム雲母」という呼び方が広く用いられています。

フックサイトで起こる Al³⁺ Cr³⁺ の置換は、3価の陽イオン同士による同価数の置換です。

そのため、この置換によって八面体層全体の電荷は変わらず、バランスの調整は必要ありません。


この価数が同じ元素間の置換は、これまでに扱った金雲母鉄雲母の間でも起きています。

両者の八面体席では、

Mg²⁺ ⇄ Fe²⁺

という置換が起こり、固溶体(黒雲母)を形成します。


このように、同価数の置換そのものは、雲母では比較的よく見られ、置換自体もシンプルです。


しかしながら、一般的な白雲母の形成環境ではCrの供給が乏しいため、通常はフックサイトと呼ばれるほど特徴的にCrを取り込むことはありません。

フックサイトができるには、いくつかの環境的な条件が必要です。

フックサイトの形成には、まず、Cr が豊富な環境というのが前提としてあります。

ここでは、フックサイトの代表的な形成モデルとして、Cr に富む超苦鉄質岩を起点とする場合を見ていきます。

形成の流れとしては、超苦鉄質岩が変成作用熱水変質を受けて変化していくという過程をたどります。

「超苦鉄質岩(ちょうくてつしつがん)」という岩石は、前々回「火成岩とペグマタイト」で扱った火成岩の組成分類の延長にある岩石です。

これは、火成岩の分類を別の視点から見た区分になります。


前々回に、マグマに含まれる SiO₂の量によって、形成される火成岩が異なることを述べましたが、そこでは、

SiO₂が多い中間SiO₂が少ない

という区分で分類しました。


これとほぼ対応するかたちで、SiO₂の量も含めた組成そのものを大まかに表す区分があります。

珪長質 中間質 苦鉄質


これらの区分を照らし合わせると、次のようになります。


「珪長質(けいちょうしつ)」

  • 「珪」は、シリカ(SiO₂)
  • 「長」は、長石

シリカや長石に富む組成を表しています。


「苦鉄質(くてつしつ)」:

  • 「苦」は、「苦土(MgO)」に由来し、マグネシウム(Mg)の意
  • 「鉄」は、鉄(Fe)

Mg(マグネシウム)やFe(鉄)に富む組成を表しています。


そして、「超苦鉄質岩」は、この苦鉄質よりもさらにMg(マグネシウム)やFe(鉄)に富み、SiO₂の割合が低い組成をもつ岩石のことです。

代表的なものにはかんらん岩があり、かんらん石や輝石など、MgやFeを多く含む鉱物を主体とします。


つまり、組成の流れとしては、

珪長質 → 中間質 → 苦鉄質 → 超苦鉄質

と、右へ進むほどSiO₂が少なくなり、MgやFeに富む側へ移っていく、と捉えることができます。

火成岩の組成区分と代表的な岩石


そして、この超苦鉄質岩にはCr(クロム)も比較的多く含まれるため、フックサイトを形成するための重要な供給源となります。

変成作用(へんせいさよう)とは、すでにできている岩石が地下で熱や圧力などを受けることで、溶けることなく、岩石中の鉱物が別の鉱物へと作り替えられていく作用です。

地下では、温度や圧力が変わると、それまで存在していた鉱物がその環境に合わなくなることがあります。

すると、その鉱物をつくっていた成分が組み替えられ、その環境でより安定した新しい鉱物が形成されます。


つまり変成作用では、岩石の中にある元素が、それまで入っていた鉱物から別の鉱物へと「行き先」が変わります。

これが、元素の「再配分」です。


超苦鉄質岩に含まれるCrは、もともと主にクロムスピネルなどの鉱物中に存在しています。

この超苦鉄質岩が変成作用を受けると、もとの鉱物に含まれていたCrが再配分され、別の鉱物へ取り込まれ得る状態になります。

ただし、ここでもう一つ重要なのが、フックサイトの母体となる白雲母そのものをつくるための成分です。

超苦鉄質岩は、かんらん石や輝石などを主体とし、MgやFeには富みますが、白雲母をつくるために重要なK(カリウム)などには乏しい岩石です。

したがって、超苦鉄質岩内部の成分を組み替えるだけでは、フックサイトの母体となる白雲母を十分につくれない場合があります。


そこで必要となるのが、岩石の中を通る熱水などの流体です。

この流体によって外部からKなどの成分が運び込まれることがあり、そこではじめて白雲母を形成できる条件が整います。

流体からKなどが供給されて白雲母が形成される際に、再配分されたCrの一部がその白雲母に取り込まれます。

こうした地下を移動する高温の流体が岩石と反応し、鉱物を変化させることを、「熱水変質(ねっすいへんしつ)」といいます。

フックサイトは、Crに富む超苦鉄質岩が形成される過程で、そのまま生じる鉱物ではありません。

通常の過程では、クロムスピネルなどの鉱物が形成され、Crはそこに取り込まれます。

岩石がいったん形成された後、さらに変成作用熱水変質による変化を受けることで、ようやくフックサイトが生まれるのです。


これはあくまで代表的な形成モデルの一例ですが、Cr を含む岩石や鉱物から Cr が再配分され、それが新たに形成される白雲母に取り込まれるという流れは、フックサイトの成り立ちを理解するうえで重要なポイントです。

フックサイトの特徴である淡いアップルグリーンから濃いエメラルドグリーンまでの色あいは、主としてCr(クロム)によります。

Cr は、鉱物の発色要因となり得る発色元素のひとつで、結晶構造の中に取り込まれることで、その鉱物の色に影響を与えます。

これは、前回のレピドライトでMn(マンガン)が発色に関わっていたのと同様です。


ただし、緑色の白雲母がすべてフックサイトというわけではありません。

白雲母には Cr³⁺ だけでなく、V³⁺(バナジウム)が Al³⁺ を置換して緑色を示すものもあります。

ロスコエライト(ロスコー雲母、バナジン雲母)

V³⁺ も Al³⁺ と同じ3価なので、

Al³⁺ → V³⁺

電荷のバランスを崩すことなく白雲母に入ることができます。


そして、含バナジウム白雲母は、

K(Al,V)₂AlSi₃O₁₀(OH)₂

のように表されます。

さらに V³⁺ の割合が増えた側には、「ロスコエライト」という独立した鉱物種があり、その理想的な端成分は、

KV₂AlSi₃O₁₀(OH)₂

と表されます。

これは、先ほどのフックサイト(含クロム白雲母)とクロムフィライトの関係によく似ています。


フックサイト周辺では、商品名や岩石名が混ざりやすいので、ここで整理しておきます。

グリーンアベンチュリン
Green Aventurine / Maatpublishing / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

石英の中に微細なフックサイトなどが含まれることで緑色を示し、その反射によって独特のきらめきが見られるものを指す、宝石名・流通名です。
「フックサイトを含む=必ずグリーンアベンチュリン」ではなく、アベンチュレッセンスが見られる緑色の石英という点が重要です。

ルビー・イン・フックサイト
Ruby & Fuchsite / Rob Lavinsky, iRocks.com / CC BY-SA 3.0

その名のとおり、フックサイトを主体とする緑色の母岩中に、赤いコランダム(ルビー)が入ったものに使われる流通名です。

ヴァーダイト(Verdite)
Verdite / James St. John / Wikimedia Commons / CC BY 2.0

単一の鉱物を指す名称ではなく、主にフックサイトを多く含む緑色の岩石に使われる流通名です。
フックサイトのほか、石英や曹長石、緑泥石などを含むことがあります。
装飾石として彫刻や置物などに利用されます。

マリポサイト(Mariposite)

Crを含む緑色の白雲母、またはCrを含むフェンジャイト質白雲母に使われてきた名称で、フックサイトと重なる部分が多いものの、歴史的に用法が一定していません。
また、この雲母を多く含む岩石そのものを「マリポサイト」と呼ぶこともあります。
要するに、フックサイトよりも「名前の使われ方が曖昧で、鉱物と岩石の両方にまたがっている」のがマリポサイトです。

(参考)セラドナイトとフェンジャイト
Celadonite / Géry PARENT / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0


雲母の八面体席に入る代表的な元素は、Al³⁺Mg²⁺Fe²⁺ などです。

そして、雲母の基本構造でも述べたように、Al³⁺が主体の場合は2八面体型、Mg²⁺やFe²⁺が主体の場合は3八面体型となるのが一般的です。

前者の代表が白雲母、後者の代表が金雲母鉄雲母などになります。


ところが、Mg²⁺ を含んでいるにもかかわらず、3八面体型ではなく2八面体型の雲母もあります。

Al³⁺ と組み合わさり、Mg²⁺+Al³⁺ の八面体席を持つのが「アルミノセラドナイト」です。

アルミノセラドナイト:KMgAlSi₄O₁₀(OH)₂


また、Fe³⁺ と組み合わさって、Mg²⁺+Fe³⁺ を主体とするものが「セラドナイト」です。

セラドナイト:KMgFe³⁺Si₄O₁₀(OH)₂

※ここでのFeは、金雲母や鉄雲母などで見てきた Fe²⁺ ではなく、Fe³⁺ である点に注意。

このアルミノセラドナイトとセラドナイトは、どちらも独立した鉱物種です。


そして、どちらも白雲母と置換関係にあります。


結晶化学的には、白雲母からアルミノセラドナイト側へ移るにつれて、八面体席の Al³⁺ の一部がMg²⁺ に置き換わります。

そして、セラドナイト側では、さらに別の Al³⁺ が Fe³⁺ に置き換わります。

ただし、Al³⁺ → Mg²⁺ については価数の異なる置換であり電荷調整を必要とするため、四面体席のAl置換量と連動して起こります。

これは、レピドライトにおけるLi置換の電荷調整に似ています。


※これらの図は必ずしも形成順序ではなく、組成関係を理解するための模式図です。


白雲母 ↔ アルミノセラドナイト
白雲母 ↔ セラドナイト


そして、

アルミノセラドナイト ↔ セラドナイト

これらの間には固溶関係があり、その中間的な組成をとる雲母が存在します。

そのうち、白雲母 ↔ アルミノセラドナイト/セラドナイト間の中間的な組成領域には「フェンジャイト」という名称が付いています。


フェンジャイト(Phengite)は、一方では「Siに富む白雲母の変種」という捉え方もされます。

これは、白雲母を基準に見ると、八面体席へ Mg²⁺ や Fe²⁺ などが入るのと連動して、四面体席の Al³⁺ が Si⁴⁺ に置き換わり、通常の白雲母より Si を多く含む組成になるためです。

このことから、固溶関係を表す「フェンジャイト」とは別に、白雲母の変種として記述する際にはフェンジャイト質白雲母と表現されることがあります。


フェンジャイトの代表的な組成式は、

フェンジャイト
KAl₁.₅(Mg,Fe²⁺)₀.₅(Al₀.₅Si₃.₅O₁₀)(OH)₂

のように表されます。


終わりに

今回の記事では、緑色を呈する雲母の代表格として、フックサイトを取り上げました。

さらに、そこからつながる形で、フェンジャイト、アルミノセラドナイト、セラドナイト、マリポサイト、ロスコー雲母などについても触れました。


雲母は、四面体席、八面体席、層間という決まった構造を持っていますが、そこに入る元素が変われば、単純に一つの元素だけが置き換わるとは限りません。

価数の異なる元素が入れば、別の席でも置換が起こり、結晶全体として電荷を合わせる必要があります。

この元素の置換電荷のつり合いを押さえておけば、既知の雲母を理解するだけでなく、これまで見たことのない雲母名に出会ったときにも、化学式を見ながら、

どの席に、どの元素が入り、どこで電荷を調整しているのか

をある程度推測できるようになります。


多種多様な雲母を一つひとつ丸暗記するよりも、基本構造と置換の仕組みを理解することの方が、全体像をつかむうえで重要となってきます。


最後に、雲母の多様性のひとつ『層間を K⁺(カリウム) 以外の元素が占める雲母』の一例を紹介して、このシリーズを締めくくります。

層間のKがNaになる雲母

これまでの説明では、雲母の層間には主に K⁺(カリウム) が入るものとして扱ってきました。

けれど、雲母の中には、この層間位置を Na⁺(ナトリウム) が占めるものもあります。

代表的なのが、パラゴナイト(Paragonite)です。

和名で「ソーダ雲母」といいます。


白雲母が、

KAl₂AlSi₃O₁₀(OH)₂

であるのに対して、パラゴナイトは、

NaAl₂AlSi₃O₁₀(OH)₂

と表されます。

つまり、

白雲母では層間イオンが K⁺ 主体ですが、それが Na⁺ 主体になるだけで、パラゴナイトという別の鉱物種として区別されます。


このように、雲母は層間イオンの違いによっても鉱物種が分かれますが、純雲母の範囲では、基本的に1価どうしの置換です。

それは、白雲母やパラゴナイトが属する「純雲母」は、層間を主として1価の陽イオンが占める雲母として分類されているためです。

以前少し触れましたが、2価の陽イオンを主体とするものは、脆雲母と呼ばれて区別されます。

ただし、「純雲母」と「脆雲母」は、広義にはどちらも雲母に含まれます。






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