【第16回】ケイ酸塩鉱物を学ぶ③

テクトケイ酸鉱物(つづき)

前回は、石英を例にテクトケイ酸塩鉱物の立体網目構造とその電気的な安定のしくみを見てきました。


今回は、もう一つの代表的なテクトケイ酸塩鉱物である長石を取り上げ、

テクトケイ酸塩鉱物が金属イオンと結びつく理由を考察します。


長石の場合

長石という名称も、鉱物群の総称、グループ名です。


このグループの一般式は、次のようになります。

長石の化学式(一般式)

(Na,K,Ca)(Al,Si)₄O₈


SiO₄SiO₂ が見当たらない点で、これまでと違って見えますが、

内容的には『 金属イオン + SiO₂ 』という構図です。


つまり、

「石英と同じ構造に金属イオンが結合したもの。」

という図式を表しています。



そもそも石英の構造(SiO₄四面体の立体網目構造)は電気的に中性で安定しているはずなのに、
なぜ金属イオンが必要なのでしょう?


ここからが、前回の続きになります。

この矛盾とも思える結合の原因は、

長石の化学式に含まれるアルミニウム(Al)の存在です。


ここでのアルミニウムは、

電気的に中和するために結合した金属イオンではなく

四面体構造そのものに組み込まれたものです。



これは、一部の四面体において、

ケイ素原子(Si)アルミニウム原子(Al)置き換わっていることを意味しています。

これにより四面体は、

SiO₂ → AlO₂

と変化します。(三次元構造内なのでSiO₂と考えます)


Si は +4 の電荷を持っていましたが、
Al は 3価の陽イオン(Al³⁺)なので、+3の電荷しか持っていません。

このため、四面体がマイナスの電荷を帯びてしまいます。


そこで、この不足分の陽イオンを補い、電荷を安定させるために、

追加の金属イオンが必要となってくるのです。


このようなアルミニウムに置換された四面体を持つケイ酸塩を、

「アルミノケイ酸塩」と呼びます。



※厳密には、AlO₂ ≠ ケイ酸イオンなのですが、四面体構造に変化はないためケイ酸イオンの一種として扱われます。


長石の場合、
この置換された四面体AlO₂)と通常の四面体(SiO₂)の比率は、

1:3 あるいは 2:2 になります。



1:3 の場合は、

AlO₂ × 1 SiO₂ × 3
=(Al + O₂) + (Si + Si + Si + O₂ + O₂ + O₂)
=AlSi₃O₈

という構成比となります。
(例:カリ長石曹長石



2:2の場合は、

AlO₂ × 2SiO₂ × 2
=(Al + Al + O₂ + O₂) + (Si + Si + O₂ + O₂)
=Al₂Si₂O₈

と表されます。
(例:灰長石



これらを一般式で表したものが、

長石の化学式(一般式)

(Na,K,Ca)(Al,Si)₄O₈ ← この部分

AlSi にかっこ()をつけて、任意の割合であることを示しています。

Al(Al, Si)Si₂O₈ とも表されます。


まとめ

四面体が4つ = (SiO₂)₄ = Si₄O₈
うち1つが Al に置換 → AlSi₃O₈
2つが Al に置換 → Al₂Si₂O₈
一般式 → (Al,Si)₄O₈



そして、この四面体と結合しているのが、

ナトリウム(Na)カリウム(K)カルシウム(Ca)です。


長石では、主にこの3つの元素が金属イオンとして結合しています。

  • カリ長石
    • 正長石(オーソクレース)  : KAlSi₃O₈(単斜晶系)

    • 微斜長石(マイクロクリン) : KAlSi₃O₈(三斜晶系)

  • 斜長石
    • 曹長石(アルバイト)    : NaAlSi₃O₈

    • 灰長石(アノーサイト)   : CaAl₂Si₂O₈

これら端成分が混ざり合って(固溶体)、多種多様な長石が形成されるため、

一般式では、(Na,K,Ca) と表現しています。


電荷のバランス

カリ長石曹長石AlSi₃O₈ なので、Al に置換された四面体を1つ持っています。

これは、−1 の電荷を帯びた状態です。


これを安定されるために、
カリ長石はカリウム(K)と、曹長石はナトリウム(Na)とそれぞれ結合しています。

これらの金属元素は、ともに1価の陽イオン(+1)です。

カリウムイオン (K⁺)
ナトリウムイオン (Na⁺)


なので、−1 の電荷をちょうど中和し、安定します。



灰長石は、Al 置換の四面体が2つ存在する Al₂Si₂O₈ という形をとるため、

−2 の電荷が生じます。


灰長石が結合するカルシウム(Ca)は、2価の陽イオン(+2)です。

カルシウムイオン(Ca²⁺)


よって、この場合も電荷のバランスが保たれた結合であるといえます。


終わりに

テクト珪酸塩鉱物はその構造上、電気的に安定しているので、石英以外はアルミノケイ酸塩という形をとることで、金属元素と結合しています。

長石のほかには、沸石(ゼオライト)が知られています。


アルミノケイ酸塩という分類は、成分的な特徴を示す一つのカテゴリーです。


なので、テクトケイ酸鉱物に限ったものではなく、他のケイ酸塩鉱物でもアルミノケイ酸塩を持つものは存在します。


参考までに

ウィキペディアでは、”ケイ酸塩” について以下のように記述されています。

ケイ酸塩は、1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物を指す。
(中略)
一般的によく見られるケイ酸塩は酸素を配位子とするものである。」

「ケイ酸塩アニオンは他のカチオンと結合し、電気的に中性な化合物を形成する。シリカ(二酸化ケイ素) SiO₂ はケイ酸塩の一種と考えられることもある。これはケイ素周りが負電荷を帯びないため、追加のカチオンを含まない特別な例である。シリカは石英やその多形などの鉱物として自然界に見られる。」

「ケイ酸塩鉱物に代表される大多数のケイ酸塩では、ケイ素原子は4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとる。鉱物の種類によってこの四面体が連なる度合いは異なり、単独、対、クラスター、環状、鎖状、二本鎖状、層状、3次元網目状など多岐にわたる。ケイ酸塩鉱物はこのアニオン構造の違いによって分類される。」

「ケイ酸塩」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。
“2024年9月1日 (日) 1:56″ UTC
URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%A4%E9%85%B8%E5%A1%A9


初見で理解するには、なかなかハードルの高い表現になっていますが、

これまで話してきた内容を踏まえていただくと、なんとなく言ってることがわかるのではないかと期待しているのですが、いかがでしょう?


補足:

アニオン」:陰イオンのこと。
カチオン」:陽イオンのこと。
配位子(はいいし)」:中心となる原子の周りに結びついている原子などのこと。




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