【第17回】輝石

1. 鉱物的な特性

輝石(きせき):パイロキシン は、イノケイ酸塩鉱物に属する鉱物グループです。


”イノ” とはギリシャ語で「鎖」という意味で、SiO₄四面体が直線的な鎖状に結合した構造を持っています。


この鎖状は2種類に分けられ、鎖が1本からなる場合を単鎖(たんさ)、2本からなる場合を複鎖(ふくさ)または二重鎖(にじゅうさ)と呼んでいます。

輝石は、単鎖の代表的な鉱物です。

単鎖の結合

具体的には、隣り合う四面体が2つの酸素原子を共有することで、一方向に連結した鎖を形成します。

SiO₄四面体が単独の場合、基本構造はSiO₄で、ケイ酸イオンとしてはSiO₄⁴⁻ です。
(ネソケイ酸塩鉱物)

また、四面体が4つの酸素原子を共有して立体網目状の場合、基本構造はSiO₂で、ケイ酸イオンの状態は存在しません。(テクトケイ酸塩鉱物)


では、イノケイ酸塩鉱物(単鎖)の場合は?と言うと、

基本構造:SiO₃
ケイ酸イオン:SiO₃²⁻

になります。


これは、4つの酸素原子のうち2つを隣接する四面体と分け合っているため、

Si + O + O + ¹⁄₂O + ¹⁄₂O
=SiO₃

となるからです。


電荷の点から見ると、

Si⁴⁺ + O²⁻ + O²⁻ + O⁻ + O⁻
=SiO₃²⁻

となり、2価の負の電荷(²⁻)を持つケイ酸イオンとして存在します。


輝石の単鎖の場合、
このSiO₄四面体(基本構造SiO₃)が2つで1ユニット(連結の単位)になります。


これを化学式で表すと、

SiO₃ + SiO₃
=(SiO₃)₂
=Si₂O₆

になります。


ケイ酸イオンとしても電荷が2つ分になるので、

SiO₃²⁻ + SiO₃²⁻
=(SiO₃)₂⁴⁻
=Si₂O₆⁴⁻

と表すことができます。


輝石は、この単鎖と金属イオンが結合して形成されます。

輝石の化学式(一般式)

XYSi₂O₆ または XY(SiO₃)₂

XとYは金属イオン

※輝石グループの中に、アルミノケイ酸塩を含むものがありますが、
希少鉱物なため考慮していません。



単鎖は4価の陰イオン(⁴⁻)なので、これを相殺するために、

合計4価の陽イオン(⁴⁺)と結合しています。

X位置:主な金属イオン

マグネシウム(Mg²⁺)鉄2価(Fe²⁺)カルシウム(Ca²⁺)ナトリウム(Na⁺)リチウム(Li⁺)など。

Y位置:主な金属イオン

マグネシウム(Mg²⁺)鉄2価(Fe²⁺)アルミニウム(Al³⁺)鉄3価(Fe³⁺)クロム(Cr³⁺)など。


輝石の種類は20種類以上ありますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

Mg-Fe輝石

端成分
エンスタタイト(頑火輝石):Mg₂Si₂O₆
フェロシライト(鉄珪輝石):Fe²⁺₂Si₂O₆

※XとYに同じ金属イオンが入ります。

連続固溶体
ハイパーシーン(紫蘇輝石):
(Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆

ブロンザイト(古銅輝石):
(Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆

Ca輝石

端成分
ダイオプサイド(透輝石):
CaMgSi₂O₆

ヘデンバージャイト(灰鉄輝石):
CaFe²⁺Si₂O₆

連続固溶体
オージャイト(普通輝石):
(Ca,Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆



Na輝石

ヒスイ輝石(ジェダイト):
NaAlSi₂O₆

エジリン輝石(錐輝石):
NaFe³⁺Si₂O₆

コスモクロア輝石(別名:ユレーアイト):
NaCrSi₂O₆



Li輝石

リチア輝石(スポデューメン):
LiAlSi₂O₆


※鉄は2価と3価の区別がつくように価数を表示しています。


2. 輝石の分類

輝石は、結晶系の違いにより大きく2つに分けられます。

斜方輝石:斜方晶系
単斜輝石:単斜晶系


さらに、X位置に占める金属イオンの種類に基づいて、細かく分類されます。

これは、X位置の金属イオンが鉱物の性質に及ぼす影響が大きいためです。


斜方輝石で代表的なのは、マグネシウム(Mg)と(Fe)を主成分に含むMg-Fe輝石です。


これは、

マグネシウムを主成分とするエンスタタイト
(頑火輝石:がんかきせき:Mg₂Si₂O₆)

を主成分とするフェロシライト
(鉄珪輝石:てつけいきせき:Fe²⁺₂Si₂O₆)

で構成されるグループです。


これら2つの鉱物はさまざまな割合で混ざり合い、連続固溶体を形成します。


かつては、その比率によって各固溶体に個別の鉱物名がつけられていましたが、

現在は正式名としては使用されなくなっています。


一般によく知られている固溶体は、次の二つです。



エンスタタイトをEn、フェロシライトとFsとしたとき、

En₇₀Fs₃₀ から En₅₀Fs₅₀ の範囲を、

ハイパーシーン
紫蘇輝石(しそきせき)
(Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆

と呼んでいます。

ただし、旧分類での呼称です。

ハイパーシーンは、シラー効果が現れることがありますが、これは鉄とマグネシウムの比率が適度で、光の反射を引き起こしやすいためだと考えられます。




エンスタタイト(マグネシウム)の割合がより多く、

En₇₅Fs₂₅ から En₉₀Fs₁₀ の範囲を、

ブロンザイト
古銅輝石(こどうきせき)
(Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆

と呼んでいます。

こちらも旧分類の呼称です。



単斜輝石に属する、カルシウム(Ca)を主成分に持つ輝石グループです。


これは、

カルシウムマグネシウム(Mg)を主成分とするダイオプサイド
(透輝石:とうきせき:CaMgSi₂O₆)

カルシウム鉄(Fe)を主成分とするヘデンバージャイト
(灰鉄輝石:かいてつきせき:CaFe²⁺Si₂O₆)

で構成されています。


この2つの鉱物もMgとFeが置換することで混ざり合い、

オージャイト
(普通輝石:ふつうきせき:(Ca,Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆)

と呼ばれる固溶体を形成します。

Ca輝石では、ダイオプサイド(Diopside)が代表的です。


特にクロムを含むことで鮮やかな緑色を呈したクロムダイオプサイドと、

黒地に4条の光を放つスターダイオプサイド(通称:ブラックスター)が有名です。



主成分に共通してナトリウム(Na)を含む単斜輝石のグループです。


Na輝石の主な種類には以下があります。

ナトリウムとアルミニウム(Al)を主成分に含みます。

翡翠(ジェイド)の中でも ”硬玉(こうぎょく)” に区別され、「本翡翠」とも呼ばれます。

純粋なものは白色ですが、微量の鉄やクロムを含むと緑色、微量の鉄やチタンまたはマンガンを含有すると紫色(ラベンダー)になります。

ナトリウムと三価の鉄(Fe³⁺)を主成分に含みます。

柱状または針状の結晶で、濃緑色や茶色、黒色をしています。

とくに、先端がとがった外観をしたものを錐輝石(きりきせき)と呼んでいます。

ナトリウムとクロム(Cr)を主成分に含みます。

クロムを多く含むため、緑色が濃いのが特徴です。

希少鉱物ですが、ヒスイ輝石と共に産出されることが多いようです。

別名:ユレーアイト


主成分にリチウム(Li)を含む単斜輝石のグループで、

その代表がリチア輝石です。

リチウムとアルミニウム(Al)からなる輝石であり、

さまざまな不純物がアルミニウム原子と置換されることにより色変種が存在します。

クンツァイト

微量のマンガン(Mn)に置き換わると淡いピンク色から薄紫色を示します。

ヒデナイト

クロム(Cr)に置き換わると黄緑色から淡い緑色を示します。

リチア輝石の中で最も希少と言われています。

トリフェイン(トリフェーン)

一般的に鉄(Fe)によるものとされていますが、発色の要因が完全には明らかになっていないようです。

黄色から淡黄色を示します。


3. 準輝石

「準輝石(じゅんきせき)」は、輝石と似た構造を持つ鉱物群です。


基本的な構造は、輝石と同じイノケイ酸塩の単鎖状ですが、

単鎖の連結単位(四面体の周期)が異なります。


輝石では、2つの四面体が繰り返されるのに対し、

準輝石では3つ、5つ、7つなど、より多くの四面体が繰り返されるのが特徴です。

代表的な準輝石
3周期

ウォラストナイト(珪灰石):
Ca₃Si₃O₉ または CaSiO₃ 三斜晶系

四面体が3つで1ユニットと考え、

SiO₃ × 3 = Si₃O₉

これに金属イオンのカルシウム(Ca)が結合した鉱物です。
Ca₃Si₃O₉

それぞれの四面体にCaが1つずつ対応しているので、

単純に CaSiO₃ と表すこともあります。


5周期

ロードナイト(薔薇輝石):CaMn₃Mn(Si₅O₁₅) 三斜晶系

ロードナイト


薔薇輝石(ばらきせき)とも呼ばれますが、輝石ではなく準輝石です。


四面体が5つで1ユニットなので、

SiO₃ × 5 = Si₅O₁₅

このシリカに金属イオンのカルシウム(Ca)マンガン(Mn)が結合した鉱物です。
CaMn₃Mn(Si₅O₁₅)


Mnが2ヶ所で表記されていますが、これは構造的に異なる場所、異なる役割を持っているため、あえて分けられています。



準輝石の鉱物の多くは、三斜晶系に属している点でも輝石とは異なっています。


4. 終わりに

輝石の鉱物的な特性の一つに「劈開性」があります。

劈開(へきかい)とは、鉱物が特定の方向に沿って割れやすい性質のことを指し、結晶構造に由来します。


劈開によってできた面(劈開面)は、比較的平らで滑らかです。



ほとんどの鉱物は何らかの劈開を持っていますが、輝石の劈開で特徴的なのは、

2方向の劈開面を持ち、その角度は約87度93度交差しているという点です。


このため、輝石は柱状に割れやすい傾向があり、その断口(だんこう)面はやや平行四辺形になります。

断口とは、劈開ではない方向に割れた面です。


この劈開角度は、輝石を他の鉱物と区別するのに役立ちます。




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