第2回 イザナギとイザナミ ― 国生みの物語

前回、混沌とした世界から高天原(たかまがはら)が生まれ、最初の神々が現れました。

今回は、ついに「国づくり」が本格的に始まる場面です。

登場するのは、男女一対の神――イザナギとイザナミ。
ここから、日本列島を生み出す壮大なドラマが始まります。

国土創生を命じられた二柱の神

別天津神の出現の後に現れたのが、神世七代(かみよななよ)と呼ばれる神々です。

ここでは、まず最初に二柱の独り神が姿をあらわし、そのあとに男女一対の神々が五組現れました。

独り神はそれぞれを一代とし、男女対の神々は一組で一代と考えます。


その最後の第七代に現れたのが、伊邪那岐神と伊邪那美神です。

数多くの神々が誕生する中で、国土を生み出すという重要な使命を託されたのは、まさにこの二柱でした。

  • 伊邪那岐神(いざなぎのかみ)
    「誘う男神」
  • 伊邪那美神(いざなみのかみ)
    「誘う女神」


名前の「イザナ」は「誘う(いざなう)」に由来するとされ、
ふたりが手を取り合い、世界を作り導いていく役目を示しています。

高天原の神々は、
まだ形の定まっていない下界――「葦原中国(あしはらのなかつくに)」――を作り固めるよう、イザナギとイザナミに命じました。

そのために与えられたのが、特別な神器である

「天沼矛(あめのぬぼこ)」
です。

この矛は、ただの武器ではなく、創造の力を象徴する聖なる道具でした。

天の浮橋に立つ

イザナギとイザナミは、
天空にかかる「天の浮橋(あめのうきはし)」に立ちました。

この橋は、まだ地上世界が完全にできあがっていない段階で、
神々が天と地を行き来するために架けられていたと考えられています。

ふたりは、天沼矛を下界へと差し込み、
ぐるぐるとかき混ぜました。

すると、海がとろりと固まり始め、
矛を引き上げると、その先端から滴り落ちたしずくが集まって――
最初の陸地、淤能碁呂島(おのごろじま)が生まれたのです。

「おのごろ」とは、「自然に固まったもの」という意味だともいわれます。

そのため、おのごろ島は「国生み」には含まれませんが、本格的な国生みを始める、いわば舞台となる島です。

夫婦の契りと失敗

ふたりはおのごろ島に降り立ち、まず中央に天之御柱(あめのみはしら)を立て、
八尋殿
(やひろどの)という立派な御殿を築きます。

そして、これから国をつくるために、ふたりは「夫婦」となる必要がありました。

イザナギはイザナミにこう問いかけます。
「私の身体には、成り余っている部分がある」

イザナミは応じました。
「私の身体には、成り合わない部分があります」

イザナギは続けてこう言います。
「それならば、このふたつを合わせて、この国を生んでみようではないか」

イザナミはこの申し出にうなずき、ふたりは契りの儀式を行うことになります。

その手順は次のようなものです。

  1. ふたりは天之御柱を挟んでそれぞれ反対方向に回り、
  2. 柱の向こうで出会ったところで、言葉を交わす。


こうして儀式に従い二人が出会ったとき、
先に声をかけたのはイザナミ(女神)でした。

イザナミ:「あなたは、なんと素敵な方でしょう」

続いて、イザナギ(男神)が答えます。

イザナギ:「おお、あなたこそ、なんと美しい方だろう」

ふたりは契りを交わし、子どもを生みます。
けれども──

生まれた子は蛭子(ひるこ)(「水蛭子」とも書かれる)といい、
不完全な存在として生まれたため、海に流されてしまいました。

さらにもうひとりの子も、生まれはしましたが、育つことができず、
ふたたび海へと流されてしまいます。

国生みのはじまり

この失敗を重く見たふたりは、高天原にいる神々に相談します。
すると、

「男神が先に声をかけるべきだった」

と教えられました。

そして、今度は助言に従い、
イザナギが先に声をかけ、
イザナミが応じる――

こうして、
ようやく本格的な「国生み」が始まります。

ふたりは次々に島々を生み出していきました。

  1. 淡道之穂之狭別島:(淡路島)
    あわじのほのさわけのしま
  2. 伊予之二名島:(四国)
    いよのふたなのしま
  3. 隠伎之三子島:(隠岐諸島)
    おきのみつごのしま
  4. 筑紫島:(九州)
    つくしのしま
  5. 伊伎島:(壱岐島)
    いきのしま
  6. 津島:(対馬)
    つしま
  7. 佐度島:(佐渡島)
    さどのしま
  8. 大倭豊秋津島:(本州)
    おおやまととよあきづしま


これらの八つの島を「大八島国(おおやしまのくに)」と呼び、
日本列島の基本形がここに完成したとされます。

今回のまとめ

イザナギとイザナミは、高天原の神々の使命を受けて、
まだ混沌とした下界(葦原中国)に「形」を与える重要な役割を果たしました。

儀式に失敗してしまうというエピソードは、
単なる物語ではなく、「正しい秩序」や「男女の役割」のあり方を重んじる、
当時の社会観を象徴しているとも考えられています。

こうして日本の国土は神々によって生み出された――
それが『古事記』が伝える国の起源の物語です。


次回は、国土だけではなく、
山、海、川、風、火といった、
自然界のさまざまな神々を生み出していく「神生み(かみうみ)」の物語へと進みます。

どうぞお楽しみに!

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