
準鉱物(有機物編)
「鉱物」は、無機物質であるというのが前提です。
しかし ”有機物質” でありながら、鉱物と同様に扱われているものがあります。
それが『木』に由来する「琥珀」と「ジェット(黒玉)」です。

「琥珀」 amber

琥珀は、数千万年前の樹木から分泌された樹脂が化石化したものです。
地質学的なプロセスを通じて樹脂の有機成分が固まり、
時が経つにつれて硬化して琥珀となります。
そして、その化学構造は、
分子がランダムに配列された非晶質(結晶構造を持たない)の固体です。
したがって、
『琥珀』は、非晶質の有機化合物である。
といえます。

琥珀に似た『コパル』も同様です。
「コパル」は、琥珀の若い形態とも言えるもので、数十万から数百万年ほど前の樹脂から成ります。完全に化石化していないため、琥珀よりも柔らかい質感が特徴です。

”化石化” といっても、琥珀・コパルはあくまで有機物ですが、
一般的な『化石』は無機物質です。

ここで、「化石化」について少し説明します。
一般的な化石化のプロセス
- 「分解」と「埋没」
生物の残骸や体の柔らかい部分は分解し、
残った固い部分(例えば骨や貝殻)は時間と共に地下深くに埋没します。 - 「鉱化(こうか)」と「置換(ちかん)」
それら固い部分の隙間や細胞間に、周囲の無機物質(例えば砂や泥)が入り込み(鉱化)、
化学的な変化を経て、生物の元の形状を保ったまま石化(置換)することで形成されます。

形そのままで有機物が無機物質に置き換わった状態です。
ゆえに、化石は通常、無機物質になります。
しかし、琥珀の場合、
樹脂が化石化するプロセスは、樹脂自体の化学的性質の変化によります。
それ自体が硬化するため、無機物質が「入り込む」ことはほとんどありません。
そのため、主成分は有機物のまま化石化した状態といえます。

なので、琥珀は一般的な化石とは異なる ”特殊な化石” です。

ところで、ふつうの化石は鉱物なの?
無機物質なんでしょ?
たしかに化石は生物の元々の成分(有機物)が無機物質、
特に鉱物に置き換わることが多いですが、
化石そのものが鉱物に分類されるわけではありません。
”化石” とは『地球や生命の歴史』を物語る地質学的な存在で、
それ自体が「化石」というひとつのカテゴリーになります。
過去の生物の遺骸(いがい)またはその活動の痕跡(こんせき)などが、地質学的な過程を経て保存されたもの。
であるため、石化プロセスを経て、成分的には鉱物で構成されたものになっていても、
あくまで『鉱物に置き換わった生物の遺骸である』という捉えかたをします。

このような化石は「鉱化化石(こうかかせき)」と呼びます。

アンモナイトの化石や三葉虫の化石もそうですが、
一般的な化石はほとんど ”鉱化化石” です。
「珪化木」 けいかぼく

「珪化木」も鉱化化石の一例です。
珪化木は、埋もれた樹木が地下水に含まれる珪酸(けいさん)によって徐々に置換され、
木の元の形や構造を保ったまま石化することで形成されます。

「珪酸」は二酸化ケイ素(SiO₂)のことです。

つまりは ”石英” に置き換えられたわけです。
このように、主に植物の組織が ”石英” に置き換えられて形成されるプロセスのことを
特に「珪化」(けいか)と呼び、元の植物の細胞構造を詳細に保存することが特徴です。
鉱化化石は、さまざまな鉱物によって置換されることで形成されますが、
その中でも ”珪化” は置換プロセスがわかりやすい例です。
その他の化石
鉱化化石以外の化石の例としては、以下のものがあります。
- 生痕(せいこん)化石:
生痕化石は、生物の活動によって残された痕跡(足跡、巣、糞など)を指します。
これらは生物自体の遺骸ではなく、生物の行動や生態を示す間接的な証拠です。 - 印象(いんしょう)化石:
生物の外形や輪郭が、印象として岩石に残ったものです。
例えば、植物の葉や動物の羽の形が泥などに印され、その後硬化したものがこれにあたります。 - 冷凍マンモスなど:
化石とは定義上、必ずしも石になっている必要はありません。
冷凍マンモスの身体、骨、毛などは永久凍土の中に保存されていて、従来の化石とは異なる保存形態を取っていますが、これも化石の一種とみなされます。
また、琥珀に閉じ込められた昆虫などもこれに該当します。 - ミイラ化石:
恐竜の皮膚が残ったまま化石化した状態などを指します。
これは、特定の地質学的条件下で生物の遺体が乾燥し、その後、化石化の過程を経て保存されたものです。
ジェット(黒玉)こくぎょく

ジェットとは、黒色をしていて比較的軽く、磨かれた時に艶やかになる特性がある石です。
ジェットは古代の木々が堆積し、長い地質的時間を経て圧縮され、化石化してできたものです。
それは ”炭化(たんか)” と呼ばれるプロセスを経て形成された石炭の一種であり、
主に炭素から構成されています。
また、ジェットは結晶構造を持たず、その原子が不規則に配列されている物質です。
ゆえに、
『ジェット』は、『琥珀』と同様に有機化合物から成る非晶質の物質である。

通常ならば分解、置換されてしまう炭素がなぜ残っているのでしょうか?
それには「炭化」が重要な役割を果たしています。
「炭化」とは
- 植物質の蓄積と埋没:
- 植物の残骸が、湿地や沼地などの水域に蓄積されます。
- これらの環境では、水に覆われることで酸素との接触が制限され、
また、地上よりも速やかに地層に埋没します。 - これにより通常の腐敗プロセスではなく、炭化のプロセスを経ることになります。
- 微生物による分解:
- 酸素の不足した環境でも活動できる特定の微生物が、植物質の分解を行います。
- この過程で、植物質から水素、酸素、窒素などの元素が徐々に除去され、
炭素が相対的に濃縮されていきます。
- 熱と圧力の影響:
- 地層の深くに埋まった植物質は、地球内部からの熱と上層の圧力を受けます。
- これにより、植物質の化学的構造が変化し、さらに炭素の濃縮が進行します。
- この過程で、植物質は徐々に黒く硬化し、炭素の含有量が高い物質へと変化していきます。
- 石炭の形成:
- 最終的にこれらのプロセスを経た植物質は、
「石炭」として知られる炭素に富んだ固体物質に変化します。
- 最終的にこれらのプロセスを経た植物質は、
準鉱物まとめ
今回の「琥珀」と「ジェット」を鉱物の定義に当てはめると、
- 天然である。
- 特定の化学組成を持つ。
- 結晶構造を持つ。
- 無機固体物質である。
3と4に該当しません。
特に有機化合物である点が特徴です。
結晶構造を持たない ”非晶質” という点では、
以前に説明した ”ガラス質” も同様です。
この ”非晶質” の性質を持つ石は、主に3種類あります。
- SiO₂ が主成分の天然ガラス:
オブシディアン、モルダバイト、リビアングラス - 有機化合物から成る非晶質:
琥珀、ジェット - 珪酸球の集合体:
オパール
※オパールについては
「【第10回】石英の仲間たち」で詳しく説明しています。
最後に付け加えると、
「真珠」「マザーオブパール」「珊瑚」
も ”準鉱物” になります。
生物と鉱物の複合体のような特殊な存在で、
「生体鉱物(せいたいこうぶつ)」とも呼ばれます。

またの機会に詳しく説明します。