【第18回】角閃石(かくせんせき)

1. 角閃石とは?

角閃石(amphibole、アンフィボール)は、前回取り上げた「輝石」と同様にイノケイ酸塩鉱物に属します。

ただ、輝石が単鎖であるのに対して、角閃石は二重鎖(複鎖)の構造を持つ点が大きく異なります。


その二重鎖の代表ともいえる角閃石は、「〜閃石」という名称で細かく分類されている鉱物群の総称です。


角閃石と輝石は、岩石中でしばしば共存し、外観や色調が似ているために混同されることもあり、特に肉眼観察では区別が難しい場合があります。


しかし、その構造には明確な違いがあります。

2. 二重鎖の構造

まず、単鎖の構造をおさらいすると、

SiO₄四面体が持つ4つの酸素原子のうち、2つを隣りあう四面体と共有することで結合し、1本の鎖を形成していました。


そして、この鎖が2本連結すると下の図のようになります。


これが二重鎖の構造です。


この構造を繰り返される最小単位で考えた場合、四面体4つで1ユニット(連結単位)と捉えることができます。



さらに、この1ユニット内の四面体を見てみると、単鎖を形成するだけの四面体が2つと鎖同士を繋いで二重鎖を形成している四面体が2つに分けられます。


これらを化学式で表すと、

単鎖を形成するだけの四面体は、共有する酸素原子は2つなので、

SiO₃ になります。
(詳しくは前回参照)


一方で、二重鎖の結合にも関わっている四面体の場合、

3つの酸素原子を共有していることになるため、それぞれのOが1/2ずつカウントされて

Si + O + ¹⁄₂O + ¹⁄₂O + ¹⁄₂O

=SiO₂.₅

と考えることができます。

それぞれの四面体は2つずつあるので、

SiO₃ × 2 = Si₂O₆
SiO₂.₅ × 2 = Si₂O₅

合計すると、

Si₂O₆ + Si₂O₅ = Si₄O₁₁

となり、これが二重鎖をあらわす化学式になります。

二重鎖の化学式

Si₄O₁₁


3. 角閃石の特徴 – 多様性と含水 –

電荷が大きい二重鎖

ケイ酸塩鉱物は、負の電荷を持つSiO₄四面体正の電荷を持つ金属イオンが結びつき、電荷のバランスを保つことで安定した構造を形成する鉱物です。


角閃石のSiO₄四面体は前述したように二重鎖を形成し、

Si₄O₁₁ で表されます。


これを電荷の点から見ると、マイナス6の電荷を持ったケイ酸イオンの状態で、

(Si₄O₁₁)⁶⁻

と表すことができます。

このマイナス6という電荷は大きく、多数の金属イオンと結合する余地があるということになります。

そのため、さまざまな金属イオンとの組み合わせが起こり、これが角閃石の多様性につながっています。

含水鉱物


角閃石の特徴のひとつに、水酸基 (-OH) を持つ含水鉱物(がんすいこうぶつ)という点があります。

ここでいう「含水」とは、鉱物の中に水分子そのものが液体や気体として閉じ込められているという意味ではありません。

鉱物学における「含水」とは、結晶構造の一部として水由来の成分が化学的に組み込まれている状態を指します。

角閃石の場合は、水が H₂O の形で存在するのではなく、水の成分の一部である –OH(水酸基)として結晶格子中に組み込まれています。

この –OH 基は、構造の空隙を埋めて結晶全体の電荷バランスを安定させる役割を持ち、角閃石が角閃石であるための必須要素のひとつです。

つまり「含水鉱物」とは、結晶そのものに“水の成分”が化学的に組み込まれている鉱物を指しています。

ゆえに、角閃石は水を含む条件下で形成されます。

4. 主な角閃石の種類

前述したように金属イオンの多彩な組み合わせにより、角閃石の種類は非常に多いです。

そのため現在では、角閃石グループ → 各サブグループ → 各グループ → 鉱物種 と階層的に整理され、化学組成の違いに基づいて細かく分類されています。

ただし、こうした厳密な区分けは専門的な研究の場では有用ですが、一般的な説明では便宜上、従来どおりの分類や呼称を用いることも少なくありません。

角閃石の化学式

角閃石全体を包括的に示す化学式(一般式)は、次のとおりです。

A₀₋₁BCT₈O₂₂(OH,F,Cl)₂

※ A,B,C,T にはそれぞれ大きさの異なる金属イオンが入ります。
  Aの位置には、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、または空位が入り、それ以外の元素は基本的に入りません。
 Tの位置には、基本的にはケイ素(Si)が入りますが、一部がアルミニウム(Al)に置換されることがあります。 
 水酸基の部分(OH)は、フッ素(F)や塩素(Cl)に置き換わることがあるため、並列して表記しています。


カルシウム角閃石(Ca角閃石)グループ

代表的なサブグループは、Bの位置にカルシウム(Ca)が入ることで特徴づけられるカルシウム角閃石と呼ばれるグループです。

角閃石の中でも最も産出量が多いグループのひとつで、なかでも普通角閃石(ふつうかくせんせき)は最も広く分布し、さまざまな岩石に「普通に」見られる鉱物です。

学術的に「角閃石」といえば、この普通角閃石を指すのが一般的です。

普通角閃石(ホーンブレンド)
  • 化学式Ca₂(Mg,Fe,Al)₅(Si,Al)₈O₂₂(OH)₂
        Bサイト Cサイト  Tサイト
                         ※ 組成の理解を重視した簡略表記です。
  • 結晶系: 単斜晶系
  • :黒色〜暗緑色(Feが多いと黒く、Mgが多いと緑がかる)
  • 光沢:ガラス光沢
  • 透明度:不透明〜半透明
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)
  • 結晶の形:柱状〜針状。多くは集合体で産出。


化学的特徴

  • 複雑な固溶体組成をもつ角閃石で、Mg・Fe・Al の割合が連続的に変化。
  • 端成分として
     - Mgに富む → マグネシオ・ホーンブレンド(苦土普通角閃石)
     - Feに富む → フェロ・ホーンブレンド(第一鉄普通角閃石)

現在の分類では「○○普通角閃石」などの名称でより細かく鉱物種を区別しているため、「普通角閃石」という呼称自体はグループ名でも正式な鉱物名でもありませんが、総称・慣用名として今でも用いられています。


角閃石の多くは研究対象として扱われていて、その多様性に反して市場に流通している種類は限られています。

このグループには、天然石市場に出回っているものも多く、その意味では普通角閃石よりも透閃石(とうせんせき)緑閃石(りょくせんせき)のほうがよく知られています。

これらは原石や鉱物標本として見かけることが多いものの、宝飾品として加工されるものもあります。

透閃石(トレモライト)
  • 化学式CaMgSi₈O₂₂(OH)₂
  • 結晶系:単斜晶系
  • :白色~淡緑色
  • 光沢:ガラス光沢
  • 透明度:半透明~透明
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)
  • 結晶の形:柱状・針状、繊維状など。


緑閃石(アクチノライト)
  • 化学式Ca₂(Mg,Fe)₅Si₈O₂₂(OH)₂
  • 結晶系:単斜晶系
  • :淡緑〜濃緑色(Feが多いほど濃くなる)
  • 光沢:ガラス光沢
  • 透明度:不透明〜半透明(稀に透明)
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)
  • 結晶の形:柱状・針状、繊維状。しばしば放射状集合をなす。



透閃石と緑閃石の化学式を見ると、普通角閃石の組成からアルミニウム(Al)を除いたものであることがわかります。

このことから、普通角閃石の広い組成範囲の中で「Alを含まないグループ」として位置づけることもできますが、分類上は独立した鉱物として扱われています。

ネフライトとは?


天然石市場においてよく知られている「ネフライト」は、透閃石(トレモライト)と緑閃石(アクチノライト)の2つの鉱物が緻密に絡み合った集合体です。

これらの微小な繊維状の結晶が、フェルト状に絡み合うことで、ネフライト特有の粘り強さが生まれます。

この粘り強さのことを靭性(じんせい)といい、高い靭性を持つということは欠けにくく、彫刻などに利用しやすいため、中国では古代から「軟玉(なんぎょく)」として重宝されてきました。

翡翠について

「翡翠(ひすい)」という名称は宝石名であり、硬玉(ジェダイト)と軟玉(ネフライト)の2種類があります。

  • 硬玉(ジェダイト、Jadeite): 
    50%以上のヒスイ輝石を含む単一の鉱物で、ネフライトよりも硬い。
    市場では「本翡翠」と呼ばれることも多い。 

  • 軟玉(ネフライト、Nephrite): 
    緑閃石と透閃石の集合体で、粘り強く欠けにくい。


一般的に「翡翠」と呼ぶ場合は、これら2種類をまとめた総称を指し、英語では「ジェイド(Jade)」と呼ばれます。


ネフライトは複数の鉱物から成るため、鉱物学上は「岩石」に分類されます。


ソーダ角閃石(Na角閃石)グループ

もう一つサブグループの代表的なものとして、ソーダ角閃石グループが挙げられます。

これは、一般式において Bサイトナトリウム(Na)が入る角閃石群です。

このグループの中にも、原石またはタンブルなどの加工品として市場に出回っているものがいくつかあります。

藍閃石(らんせんせき、グロコフェン)
  • 化学式Na₂(MgAl₂)Si₈O₂₂(OH)₂
  • 結晶系:単斜晶系
  • :藍色〜青紫色
  • 光沢:ガラス光沢
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)

典型的なソーダ角閃石の中でも「マグネシウム(Mg)に富む端成分」

プレートの沈み込み帯で形成される、低温・高圧型の変成岩である青色片岩(せいしょくへんがん)に多く含まれます。

リーベック閃石(リーベカイト)
  • 化学式Na₂(Fe²⁺Fe³⁺₂)Si₈O₂₂(OH)₂
  • 結晶系:単斜晶系
  • :青灰色〜青黒色
  • 光沢:ガラス光沢または絹糸光沢
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)

火成岩の中でもNaに富むアルカリ岩に生成するソーダ角閃石。
酸化的環境下で形成されるため、Fe³⁺を比較的多く含むことを特徴とする。

鉱物的に見たタイガーアイ(虎目石)

リーベック閃石の繊維状の鉱石をクロシドライトと呼びます。
これは、石綿(アスベスト)の一種である ”青石綿” として知られる天然繊維です。

タイガーアイは、このクロシドライトが石英に置き換わってできたものと考えられています。
分類上は、独立した鉱物種ではなく石英の変種に位置付けられます。

その形成プロセスは次のとおりです。

  1. 珪酸分の浸透
    地下水に含まれる珪酸分(二酸化ケイ素)がクロシドライトの繊維に染み込んでいきます。

  2. 石英への置換
    珪酸分がクロシドライトを溶かし、元の繊維状の形を保ったままゆっくりと石英に置き換わっていきます。

  3. 酸化による発色
    置換された石英に、クロシドライトに含まれていた鉄分が酸化して付着することで、特有の発色と光沢が生まれます。


このときの酸化の度合いによって色が決まります。

  • ブルータイガーアイ
    (ホークスアイ)
    ほとんど酸化せずにクロシドライト本来の灰青色を保持したもの。

  • タイガーアイ
    酸化が進んで金褐色になったもの。

  • レッドタイガーアイ
    より酸化が進むと赤色に発色することがありますが、自然界でこの状態になるのは非常に珍しいとされています。
    市場に出回っているものの大部分は、加熱処理を加えて人為的に鉄分を酸化させることで赤色に変色させたものといわれています。


タイガーアイのように、『もとの鉱物の形だけが残り、中身が別の鉱物に置き換わってできたもの』のことを「仮像(かぞう)」といいます。

すなわち、タイガーアイは石英の仮像であるといえます。
よって、タイガーアイの化学式は、主成分である石英の化学式である「SiO₂」と説明されることが一般的です。

アルベゾン閃石(アルベゾナイト)
  • 化学式:NaNa₂(Fe²⁺Fe³⁺)Si₈O₂₂(OH)₂
  • 結晶系:単斜晶系
  • :青黒〜緑黒
  • 光沢:ガラス光沢
  • モース硬度:5〜6
  • 劈開:2方向に完全(約56°と124°)

アルカリ岩に生成するソーダ角閃石。
リーベック閃石とは対照的に、還元的環境下で形成されるため Fe²⁺の割合が高い。
これにより生じるCサイトの電荷不足を補うために、AサイトにNaが入るのが特徴。
単に、Na₃(Fe²⁺₄Fe³⁺)Si₈O₂₂(OH)₂ と表記することもある。

タンブルスフィアなどに加工されることが多い。

5. 終わりに

角閃石は、火成岩変成岩の中で最もよく見られる造岩鉱物のひとつです。

けれども、その姿は決して単一ではなく、含まれる元素の違いによって色や性質を変え、
多様な環境を映し出す鏡のような存在です。

リーベック閃石やアルべゾン閃石のように、
同じ構造をもちながら酸化還元の違いで性質を変える鉱物たちは、
角閃石というグループの奥深さをよく表しています。

ひとつの鉱物群の中にも、地球の環境と時間の多様さが静かに刻まれている――
それが、角閃石の魅力です。


タイトルとURLをコピーしました