1. ケイ酸塩鉱物の分類
具体的に、ケイ酸イオン (SiO₄⁴⁻)と金属イオンはどのように結合しているのでしょう?
過去の記事でも取り上げた、
オリビン
ガーネット
石英
長石
を例にその様子を考察していきます。
ですが、その前に押さえておきたいのが、
ケイ酸塩鉱物の分類です。
学術的には、
長石や輝石、雲母などの鉱物種を構造の違いによって分類しています。
これは鉱物の構造上、SiO₄四面体がどのような配置になっているかに着目した分類法で、
この「鉱物の構造」と「金属イオンの結合」は密接に関わっています。
ケイ酸塩鉱物の分類
- ネソケイ酸塩鉱物
- 独立した四面体
- 基本構造:SiO₄
- オリビン、ガーネット、ジルコン、カイヤナイト
- ソロケイ酸塩鉱物
- 2個の四面体が1つの頂点で結合
- 基本構造:Si₂O₇
- エピドート
- サイクロケイ酸塩鉱物
- 四面体が環状に結合
- 基本構造:SiO₃
- ベリル、トルマリン
- イノケイ酸塩鉱物
- 鎖状を形成する四面体
- 基本構造:SiO₃(単鎖)
Si₄O₁₁(二重鎖) - 輝石、角閃石
- フィロケイ酸塩鉱物
- 平面(層状)を形成する四面体
- 基本構造:Si₂O₅
- 雲母
- テクトケイ酸塩
- 三次元の網目状を形成する四面体
- 基本構造:SiO₂
- 石英、長石
今回は、関連のあるネソケイ酸塩鉱物とテクトケイ酸塩鉱物について言及しています。
そのほかについては、それぞれ該当する鉱物をテーマにしたときに、あらためて解説します。
2. ネソケイ酸塩鉱物
”ネソ” とはギリシャ語で「島」を意味していて、
SiO₄四面体が他の四面体と(直接)結合せずに、島のように独立している構造を持ちます。
なので、このグループは金属イオンとの結合の様子がわかりやすく、
『金属イオン + SiO₄』というシンプルな構図で成り立っています。
その構図をそのまま表している例が「ジルコン」という鉱物です。
Zr は、金属元素のジルコニウムです。
ジルコニウムイオン(Zr⁴⁺) は4価の陽イオンであり、電荷が +4 です。
SiO₄四面体は、ケイ酸イオン (SiO₄⁴⁻) なので4価の陰イオンで、電荷が −4 です。
この二つの結合により、
全体で電荷が中和され、電気的に安定した状態(ケイ酸塩)になります。
ジルコニウムのように4価の金属イオンの場合は、四面体と1対1の結合になりますが、
価数が少ないイオンは、複数の金属イオンが組み合わさって結合します。
オリビン(ペリドット)の場合
オリビンは、フォルステライトとファイアライトという二つの鉱物が混ざり合って形成された鉱物です。
フォルステライト(Mg2SiO4)は、
金属イオンとしてマグネシウム(Mg)が2つ結合しています。
マグネシウムイオン (Mg²⁺) は2価の陽イオンなので、
(+2) × 2 = (+4)
合計で+4の電荷となり、四面体の電荷(−4)を打ち消します(電荷0)。
ファイアライト(Fe2SiO4)の金属イオンは、鉄(Fe)です。
鉄イオンには、2価と3価がありますが、
ここでは2価の陽イオン (Fe²⁺) として2つが結合しています。
よって電荷の合計は+4になり、同様に四面体の電荷を相殺します。
オリビンは、この二つの鉱物の両方の成分を持っているので、
化学式では次のように表されます。
Mg, Fe にカッコが付いているのは、
マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)が任意の割合で混在していることを示しています。
化学式とは「成分の構成比」なので、
どっちが多い少ないがあっても、両方あわせて2つ分ということです。
ガーネットの場合
ガーネットは一連の鉱物群をあらわす総称なので、グループ全体を示す化学式は、
共通する組成を表す一般式が使用されます。
XとYに入るのが、金属イオンです。
これは、
金属イオンX と 金属イオンY と SiO4四面体が、
3:2:3
の比率で結合していることを意味しています。
X位置:二価の陽イオンが入ります。
カルシウム(Ca²⁺)、マグネシウム(Mg²⁺)、鉄(Fe²⁺)、マンガン(Mn²⁺)
Y位置:三価の陽イオンが入ります。
アルミニウム(Al³⁺)、鉄(Fe³⁺)、クロム(Cr³⁺)
Xの電荷は、2価の陽イオンが3つ存在するため
+6(2×3=6)
Yの電荷は、3価の陽イオンが2つ存在するため
+6(3×2=6)
よって、金属イオンの合計電荷は
+12 (6+6=12)になります。
これに対して、
SiO₄四面体が3つ結合しているので
−12の電荷(−4×3=−12)となり、
ちょうど打ち消し合っています。
(電荷0の状態)
XとYに入る金属イオンの組み合わせによって、様々なガーネットが形成されます。
代表的なガーネットの化学式は、以下のようになっています。
- アルマンディン : Fe₃Al₂(SiO₄)₃
- パイロープ : Mg₃Al₂(SiO₄)₃
- スペサルティン : Mn₃Al₂(SiO₄)₃
- グロッシュラー : Ca₃Al₂(SiO₄)₃
- アンドラダイト : Ca₃Fe₂(SiO₄)₃
- ウバロバイト : Ca₃Cr₂(SiO₄)₃
3. テクトケイ酸塩鉱物
”テクト” はギリシャ語で「立体構造」という意味を持ち、
SiO₄四面体同士が全ての酸素原子を共有して立体的かつ網目状に結合しています。
このグループでは、共有によって酸素原子(O)が隣の四面体と半々になるため、
『金属イオン + SiO₂』という構図になります。
石英の場合
石英は、純粋なSiO₄四面体だけで100%構成された鉱物です。(不純物はのぞく)
それゆえに、
テクトケイ酸塩鉱物の特徴である立体網目構造を規則正しくシンプルに構築しています。
※平面図で表しています
ネソケイ酸塩鉱物は四面体が独立していましたが、それ以外のケイ酸塩鉱物では、四面体同士が酸素原子を共有することで結合しています。
四面体が持つ4つの酸素原子のうち、いくつの酸素原子を共有しているかによって、
環状、鎖状、層状といった構造の違いが生まれます。
テクトケイ酸塩鉱物の立体網目状は4つ全ての酸素原子を共有することで、連続した無限のネットワーク構造が形成されます。
それは、
SiO₄四面体がお互いに酸素原子(O)を半分こしている状態なので、
構成比は「SiO₂」で表され、それが石英の化学式にもなっています。
しかし、これまでの流れから考えると、この化学式を見て疑問が浮かびます。
金属イオンは?
という点です。
その答えの一つは、
『電気的に安定しているので、金属イオンを必要としない』
です。
石英の電荷
金属イオンと結合していないのに、なぜ安定しているのでしょう?
理由は、三次元構造にあります。
もっと言えば、「全ての酸素原子が共有されているため」
と言えます。
酸素原子の共有とは、酸素の持つ電荷を四面体同士で分け合うことを意味しています。
通常、SiO₄四面体は、
4価のケイ素イオン (Si⁴⁺)が1つ:
+4
2価の酸素イオン (O²⁻) が4つ:
(−2) × 4 = −8
合計で (+4) + (−8) = −4 の電荷を持つ、
ケイ酸イオン (SiO₄⁴⁻) の状態です。
各四面体は共有によって、
酸素イオンの−8の電荷が半分の−4ずつの負担で済むので、
ケイ素イオンの+4と釣り合いが取れて、電荷が0になります。
つまり、石英の構造そのものが安定を生み出しているわけです。
以上が、金属イオンを必要としない理由になりますが、そもそもの疑問点はそこではないかもしれません。
なので、答えを追加すると、
『石英は、特別である』
これに尽きます。
ケイ酸塩の例外的存在
そもそもケイ酸塩は、金属イオン(陽イオン)と結合することで初めて『塩』という化合物になります。
その意味では、金属イオンを含まなない石英は、
ケイ酸塩(鉱物)ではない。
とも言えます。
それは、”塩” ではなく、
ただの「ケイ素の酸化物」または「酸化鉱物」という位置づけです。
実際、化学的な観点からそのように分類される場合もありますが、
一般的には、そこまで塩の定義にこだわっていません。
多くの場合は、
石英を『SiO₄四面体構造を持っているが、金属イオンを伴わない特別な例』
として扱っています。
このように例外的な石英ですが、
その構造はテクトケイ酸塩鉱物そのものです。
そしてそれは電気的に安定している構造でもあります。
ではなぜ、石英以外のテクトケイ酸塩鉱物は、金属イオンと結合するのでしょう?
その謎を解く鍵は ”アルミノケイ酸塩” という存在です。
4. 次回に続く
そのアルミノケイ酸塩の代表とも言えるのが、長石です。
次回は長石とアルミノケイ酸について話していきます。
最後にひとつ付け加えたいのが、
ケイ酸塩鉱物の分類で言っている「独立している」「立体構造をしている」などは、
あくまで『SiO₄四面体が』ということです。
ネソケイ酸塩鉱物の独立した四面体も、金属イオンを介して、無数に結合しています。
つまり、『最終的には、みな鉱物として立体網目構造を形成している』ことになります。
ただ、それを四面体同士が直接結合して形成している場合を「テクトケイ酸塩鉱物」と呼んでいるわけです。