【第14回】ケイ酸塩鉱物を学ぶ①

1. 地球の表面を形成する鉱物

”ケイ酸塩鉱物” という言葉は、天然石の本などで、必ずと言っていいほど出てくる用語です。


その理由は、ケイ酸塩鉱物が地球の表面(地殻【ちかく】を形成する鉱物の約90%を占めているためで、いわば、ほとんどの鉱物がケイ酸塩鉱物と言えるからです。


その内訳を鉱物種別に見ると、下の図のようになります。

※おおよその割合です。

  • 長石(ちょうせき)類フェルドスパー
    地殻の約60%を占め、最も豊富なケイ酸塩鉱物です。

    サンストーン、ムーンストーン、ラブラドライト、アンデシン、アマゾナイトなど。


  • 石英(せきえい)クォーツ
    約12%を占めます。

    水晶、カルセドニー、アゲート、ジャスパーなど。


  • 輝石(きせき)類パイロキシン
    約11%を占めます。

    翡翠、クンツァイト、ハイパーシーン、ブロンザイトなど。


  • 角閃石(かくせんせき)類アンフィボール
    約5%を占めます。

    ネフライト、ヌーマイトなど。


  • 雲母(うんも)類マイカ
    約4%を占めます。

    モスコバイト、フックサイト、レピドライトなど。


  • その他のケイ酸塩鉱物
    総じて1%に満たないので、構成比には含まれていません。

    ガーネット、トルマリン、オリビン(ペリドット)、スピネルなど。


ここまでがケイ酸塩鉱物です。

【参考】


ケイ酸塩鉱物以外の鉱物は、全体の約8〜10%程度です。


まとめて「非ケイ酸塩鉱物」として分類されますが、参考までに代表的なものをいくつか挙げます。

  1. 炭酸塩鉱物
    (たんさんえんこうぶつ)
    炭酸(CO₃)イオンを含む鉱物。

    カルサイト(CaCO₃)
    ロードクロサイト(MnCO₃)
    マラカイト(CuCO₃)
    など。


  2. 硫酸塩鉱物
    (りゅうさんえんこうぶつ)
    硫酸(SO₄)イオンを含む鉱物。

    石膏(CaSO₄·2H₂O)
    天青石(SrSO₄)
    など。


  3. リン酸塩鉱物
    (リンさんえんこうぶつ)
    リン酸(PO₄)イオンを含む鉱物。

    アパタイト(Ca₅(PO₄)₃(F,Cl,OH))
    ターコイズ(CuAl₆(PO₄)₄(OH)₈·4H₂O)
    など。


  4. ハロゲン化鉱物
    (ハロゲンかこうぶつ)
    ハロゲン元素(塩素、フッ素、臭素、ヨウ素)を含む鉱物。

    岩塩(NaCl)
    フローライト(CaF₂)
    など。


  5. 酸化鉱物
    (さんかこうぶつ)
    酸素と金属元素の化合物からなる鉱物。

    コランダム(Al₂O₃)
    ヘマタイト(Fe₂O₃)
    ルチル(TiO₂)
    など。


  6. 硫化鉱物
    (りゅうかこうぶつ)
    硫黄と金属元素の化合物からなる鉱物。

    黄鉄鉱(FeS₂)
    など。


2. ケイ酸塩とは?

ところで、ケイ酸塩鉱物とはどんな鉱物なのでしょうか?

「ケイ酸塩」の意味とは?


ケイ酸塩の ”ケイ酸” は、

『ケイ素(Si)と酸素(O)からなる化合物』

を意味します。

※ただの「ケイ酸」は、水溶液の状態です。



わかりやすい具体例は、 石英(水晶)の主成分である『二酸化ケイ素:SiO₂』です。



では、”塩” は?

塩は、化学用語の ”えん” と呼ばれる化合物の総称です。

塩(えん)とは

陽イオン(プラスの電荷を持つ)と陰イオン(マイナスの電荷を持つ)が結合して電気的に中性になった化合物


ですが、ここではとりあえず、

電気的なバランスを取るために「何か」とくっついた

と考えてください。


まとめると、

「石英の成分」「何か」が結合して「電気的に中和された」化合物

”ケイ酸塩” のイメージです。



そして「ケイ酸塩鉱物」は、このケイ酸塩でできています。


地殻の大部分を網羅するほど、その種類は豊富ですが、なぜそんなに種類が多いのでしょう?


その理由を探るため、次でケイ酸塩を化学的にもう少し深く見ていきます。

ちなみに

「ケイ酸塩」と「ケイ酸塩鉱物」はつながりが深いので、結局のところ、言葉の説明としては同じ内容に行き着きます。

なので、「ケイ酸塩」といえば「ケイ酸塩鉱物」のことだと考えて良いです。


3. ケイ酸塩の構造

ケイ酸塩のもととなるのは『ケイ素(Si)と酸素(O)から成る化合物』つまり『石英の成分』と言いましたが、

正確には、

ケイ酸イオン(SiO₄⁴⁻)

と表現されます。


そして重要なのが、その構造です。


ケイ素原子1つ酸素原子4つが結合した四面体構造をしていて、

SiO₄四面体(エスアイオーフォーしめんたい)

と呼ばれます。

※すべてのケイ酸塩鉱物の基本構造です。




では、なぜイオン(SiO₄⁴⁻)なのか?

イオンとは、原子が電気を帯びた状態を指します。

正(プラス)の電気を帯びたものを陽イオン負(マイナス)の電気を帯びたものは陰イオンと呼びます。



ケイ素(Si)は他の原子と結びつく際に、4価の陽イオン(Si⁴⁺)として振る舞います。

これは、ケイ素原子が4つの電子(−)を放出して、プラス4の電荷を持っているという状態です。



一方で、酸素(O)2価の陰イオン(O²⁻)としての性質を示します。

酸素原子は2つの電子(−)を受け取ることで、マイナス2の電荷を持ちます。



SiO₄四面体は1つのケイ素原子4つの酸素原子の結合なので、


ケイ素(Si⁴⁺)の電荷+4
酸素(O²⁻)の電荷:(-2) × 4 = (-8)

全体の電荷+4 + (-8) = -4


四面体全体としてマイナス4の電荷を持つことになります。


ゆえに、ひとつひとつの四面体はケイ酸イオン(SiO₄⁴⁻)として扱われます


4. 電気的な安定

電気のバランスという意味では、電荷が0の状態が安定していると言えるので、電気を帯びたイオンの状態は不安定です。

そのため、イオンは他のイオンと結合して電気的に中性(電荷0)になろうとします。



ケイ酸イオン(SiO₄⁴⁻)も当然、そのままでは不安定なので、

これを解消するために反対の電荷を持つイオンと結合します。


これが、先の「石英の成分」と「何か」が結合して「電気的に中和された」化合物

として ”塩(えん)” になる理由です。


では、この「何か」の正体は?というと、

金属イオン

です。


ケイ酸イオン(SiO₄⁴⁻)は4価の陰イオン(−4)なので、中和のために必要なイオンは、

同じく4価の電荷を持つ陽イオン(+4の金属イオン)です。



このとき、4価の金属イオンひとつと1対1で結合することもあれば、

1〜3価の金属イオンが複数集まって合計4価になる形で結合する場合もあります。



結合の組み合わせは、金属イオンの種類と相まってさまざまなパターンが存在するため、

ケイ酸塩鉱物の多様性を生み出す一因となっています。

※具体的な結合の様子は、次回解説します。

5. まとめ

少しまわりくどい説明をしましたが、まとめると次のようになります。

  1. ケイ酸イオン(SiO₄⁴⁻)と金属イオンが結合した(えん)である。

  2. その構造は、中心にケイ素原子があり、それを四つの酸素原子が取り囲むSiO₄四面体を形成している。


鉱物的な観点では、特に2つ目を重要視しているため、

『ケイ酸塩鉱物は、SiO₄四面体構造をもつ鉱物である』

と定義されることも多いです。

6. 終わりに

ケイ酸塩鉱物の本質を理解するのは、少し難易度が高いかもしれません。


それは、説明する側からしても同様で、

どうしても、内容が「化学の領域」に入ってしまうので、思ったより厄介です。



ズバリ、「〜である。」と言ってスマートに話をまとめると、化学の知識が前提の話になってしまうし、

一から説明しながら進めると、話が右往左往して本質がわかりづらくなってしまいます。

かといって、

表面をなぞっただけの説明だと、言ってることはわかるけどイメージがわかない、漠然とした話で終わってしまいます。



その辺のさじ加減が難しいところです。



ただの石好きの立場からすると、

『ケイ酸塩鉱物ってのは、石英の成分が基本で、それに色んなものが混ざってできたバリエーションでしょ。』

くらいで語るのがちょうどいいのですが。


さすがに、いろいろツッコミどころ満載になってしまうので、なるべく正確な解釈に基づいて説明したつもりです。


が、あくまで ”鉱物を知る” というのがテーマなので、化学的に誤解を生む表現があるかも知れませんがご了承ください。






タイトルとURLをコピーしました