【第12回】ペリドット(かんらん石)

ペリドットとは?

ペリドットとは宝石名で、鉱物としての名称は「オリビン」といいます。

もともとは、オリビンの中でとくに宝石品質のものを ”ペリドット” と呼んでいましたが、
天然石(ジェムストーン)においてもペリドットが一般的な呼称となっています。

和名では、どちらも「カンラン石」

豆知識

オリビンの語源は、ラテン語の ”オリーブ” です。

カンラン石の ”かんらん” とは、漢字で「橄欖」と書きますが、オリーブと実の色が似ている橄欖(かんらん)と勘違いした誤訳といわれています。

実際、オリーブの木と橄欖の木は異なる植物です。


鉱物的な特性

【ペリドット(オリビン)】
和名:橄欖石(かんらんせき)

化学組成(成分): (Mg, Fe)₂SiO₄

結晶構造(結晶系): 斜方晶系


オリビンは、(Mg, Fe)₂SiO₄ という式で表されます。

Mg = マグネシウム
Fe =
SiO₄ = ケイ酸塩

つまり、「マグネシウムと鉄が混ざり合ったケイ酸塩鉱物」といえます。


このマグネシウムと鉄の混合比率は、さまざまに変化します。


これは、オリビン自体が

フォルステライト(Mg2SiO4
苦土橄欖石(くどかんらんせき) と

ファイアライト(Fe2SiO4
鉄橄欖石(てつかんらんせき)

連続固溶体だからです。

連続固溶体とは

2種類以上の物質が混合して、完全に均一な結晶構造を形成する固体を「固溶体」といいます。
その混合比率が連続的に変化して、任意の割合で固溶体を形成するものが ”連続固溶体” です。
また、固溶体の素となる要素を端成分(たんせいぶん)と呼びます。

フォルステライト(苦土橄欖石):

端成分として理論上のフォルステライトは、100%マグネシウム(Mg)から成るケイ酸塩鉱物です。

自然界では極めてまれであり、ほとんど見られません。

マグネシウム自体は発色元素ではないため、色は無色になります。

一部が鉄(Fe)に置換されることで緑色に発色します

ファイアライト(鉄橄欖石):

理論上は、鉄(Fe)とケイ酸塩(SiO₄)から成る鉱物ですが、自然界では通常、フォルステライトや他の不純物と混ざって見られます。



一般的に、マグネシウム(Mg)が多いオリビンは緑色を示し、(Fe)の含有量が多くなるにつれて、次第に色が暗くなり、褐色や黒みがかった色調を帯びます。


天然のオリビンでは、フォルステライト(Mg)が 60〜95% といわれており、

逆にいえば、ファイアライト(Fe)の割合は 5〜40% 程度なので、

色合いは明るい緑色である場合がほとんどです。


このため、オリビン(ペリドット)を ”苦土橄欖石” と呼ぶことも多いようです。


※ 本来「苦土橄欖石」は ”端成分” であるフォルステライトの和名ですが、単に Mg 含有量が多いオリビン(固溶体)に対しても用いられています。

余談

現在では、固溶体の命名には「50%ルール」といわれるものがあるそうです。
それによると、端成分にのみ鉱物名が与えられ、固溶体としての名称はつけないようです。
例えば、AとBを端成分とする固溶体の場合、A50%、B50%を境界としてどちらか偏っているほう(より端成分に近いほう)の名称で呼ぶ、というものです。




いわゆる宝石品質となるペリドットは、

フォルステライト 80%
ファイアライト 20% 

以上の比率といわれています。


オリビンの産出

オリビンは火山帯で多く産出されます。

これは、オリビンが地球内部の上部マントルに広く存在する鉱物で、地表には火山活動を通じてもたらされることによります。

火山帯より地域が限定されますが、地殻変動によって持ち上げられるケースもあります。

  • 火山活動

    火山の噴火によって、マグマとともに地表へ運ばれる。
    そのマグマが冷え固まってできた火成岩(かせいがん)、とくに玄武岩(げんぶがん)などに多く含まれます。

  • 地殻変動

    地殻の変動により地球のマントルの一部が地表に隆起されることがあります。
    この隆起した部分に含まれる岩石(カンラン岩など)は、オリビンを主成分としています。

宇宙由来

かなり希少ですが、石鉄隕石(せきてついんせき)に含まれていることもあります。
ペリドット(オリビン)を含む隕石をとくにパラサイト隕石といいます。
地球のものとは微妙な違いが見られるようで、パラサイトペリドット(パラサイティックペリドット)と呼ばれています。



火山活動による運搬プロセス
  1. マントルの部分溶融:
    • 地球のマントルは固体ですが、特定の条件下で部分的に溶融することがあります。

    • この部分溶融によって生成されるマグマは、主にオリビンを含む物質から成ります。
      これを「玄武岩質マグマ」(げんぶがんしつマグマ)と呼びます。

  2. マグマの上昇:
    • オリビンの融点は約1890℃ですが、一般的なマグマの温度は約1000℃〜1200℃です。
      このため、マグマの中でもオリビンは固体の結晶として存在します。

    • やがて生成されたマグマが地表に向かって上昇するとき、その中に含まれるオリビンの結晶は、マグマの流れによって運ばれます。

  3. 火山の噴火:
    • 地表に到達して火山が噴火すると、マグマは急速に冷却されてオリビンを含んだまま玄武岩などの火成岩を形成します。

    • また噴火の際に、マグマに含まれていたオリビン結晶が分離し、火山灰や小石と共に地表に降ることがあります。
豆知識

地下深くで形成されるオリビン(ペリドット)は、非常に高温・高圧の環境下で結晶化します。

噴火が起こると、高圧で安定していたペリドットは急激に減圧され、物理的に砕けたり、ひびが入ったりします。

そのため、大きな塊が採れることは少なく、逆に小粒のものは産出が多いので、大きさの違いによる価格差が他の石と比べて大きい傾向にあります。


その他のカンラン石

【テフロアイト(テフロ石)】
和名:マンガン橄欖石

化学組成(成分): Mn2SiO4

結晶構造(結晶系): 斜方晶系


テフロアイトはカンラン石の一種で、
マグネシウム(Mg)や鉄(Fe)の代わりに
マンガン(Mn)が主成分になっています。


これら Mg, Fe, Mn は互いに置換可能であると考えられ、
自然界ではこれらの成分が部分的に置換されている例が見られます。


つまり、フォルステライト(Mg)やファイアライト(Fe)との間で固溶体を形成する端成分ともいえますが、
ただし Mn は Mg – Fe 間ほど置換しやすいわけではないようです。


また、テフロアイトはマンガンが豊富に存在する環境でのみ形成されるため、その産出は限られています。

実際には、マンガン鉱床などでロードナイトに混在しているのが多くみられます。



終わりに

ペリドットは、マントル由来の玄武岩質マグマが噴火し、冷え固まってできた岩石に含まれていることを説明しました。


このマグマの冷却という意味では、オブシディアンが連想されますが、こちらは流紋岩質マグマ(りゅうもんがんしつマグマ)と呼ばれるものです。


流紋岩質マグマは70%以上の高いシリカ含量を持ち、このマグマが急速に冷却されることで生成されるガラス質がオブシディアンです。

マントル内で形成され、マグマによって結晶が運ばれたペリドットとは生成プロセスも異なります。


その点から見ると、ダイヤモンドが非常に近いといえます。


ダイヤモンドもマントル深部で形成され、キンバーライトと呼ばれるマグマによって地表へと運ばれます。

このキンバーライトマグマは、揮発性成分(特に水と二酸化炭素)を多く含む特殊なマグマといわれ、ダイヤモンドを運ぶ唯一のマグマです。



このように、じつはマグマにも種類があり、それぞれ違う役割をします。

ざっくりですが最後に補足しました。


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