【第4回】有機物と化石

準鉱物(有機物編)

「鉱物」は、無機物質であるというのが前提です。


しかし ”有機物質” でありながら、鉱物と同様に扱われているものがあります。


それが『木』に由来する「琥珀」ジェット(黒玉)」です。



「琥珀」 amber

琥珀は、数千万年前の樹木から分泌された樹脂化石化したものです。

地質学的なプロセスを通じて樹脂の有機成分が固まり、

時が経つにつれて硬化して琥珀となります。


そして、その化学構造は、

分子がランダムに配列された非晶質(結晶構造を持たない)の固体です。


したがって、

『琥珀』は、非晶質の有機化合物である。

といえます。


琥珀に似た『コパル』も同様です。


「コパル」は、琥珀の若い形態とも言えるもので、数十万から数百万年ほど前の樹脂から成ります。完全に化石化していないため、琥珀よりも柔らかい質感が特徴です。


”化石化” といっても、琥珀・コパルはあくまで有機物ですが、
一般的な『化石』は無機物質です。


ここで、「化石化」について少し説明します。

一般的な化石化のプロセス
  • 「分解」と「埋没」

    生物の残骸や体の柔らかい部分は分解し、
    残った固い部分(例えば骨や貝殻)は時間と共に地下深くに埋没します。


  • 「鉱化(こうか)」と「置換(ちかん)」

    それら固い部分の隙間や細胞間に、周囲の無機物質(例えば砂や泥)が入り込み(鉱化)
    化学的な変化を経て、生物の元の形状を保ったまま石化(置換)することで形成されます。


形そのままで有機物が無機物質に置き換わった状態です。


ゆえに、化石は通常、無機物質になります。



しかし、琥珀の場合、

樹脂が化石化するプロセスは、樹脂自体の化学的性質の変化によります。


それ自体が硬化するため、無機物質が「入り込む」ことはほとんどありません。


そのため、主成分は有機物のまま化石化した状態といえます。


なので、琥珀は一般的な化石とは異なる ”特殊な化石” です。


ところで、ふつうの化石は鉱物なの?
無機物質なんでしょ?



たしかに化石は生物の元々の成分(有機物)が無機物質、

特に鉱物に置き換わることが多いですが、

化石そのものが鉱物に分類されるわけではありません。



”化石” とは『地球や生命の歴史』を物語る地質学的な存在で、

それ自体が「化石」というひとつのカテゴリーになります。

化石の定義

過去の生物の遺骸(いがい)またはその活動の痕跡(こんせき)などが、地質学的な過程を経て保存されたもの。



であるため、石化プロセスを経て、成分的には鉱物で構成されたものになっていても、

あくまで『鉱物に置き換わった生物の遺骸である』という捉えかたをします。


このような化石は「鉱化化石(こうかかせき)」と呼びます。

アンモナイトの化石や三葉虫の化石もそうですが、
一般的な化石はほとんど ”鉱化化石” です。


「珪化木」 けいかぼく

「珪化木」も鉱化化石の一例です。


珪化木は、埋もれた樹木が地下水に含まれる珪酸(けいさん)によって徐々に置換され、

木の元の形や構造を保ったまま石化することで形成されます。

「珪酸」は二酸化ケイ素(SiO₂)のことです。

つまりは ”石英” に置き換えられたわけです。



このように、主に植物の組織が ”石英” に置き換えられて形成されるプロセスのことを

特に「珪化」(けいか)と呼び、元の植物の細胞構造を詳細に保存することが特徴です。



鉱化化石は、さまざまな鉱物によって置換されることで形成されますが、

その中でも ”珪化” は置換プロセスがわかりやすい例です。


その他の化石

鉱化化石以外の化石の例としては、以下のものがあります。

  • 生痕(せいこん)化石

    生痕化石は、生物の活動によって残された痕跡(足跡、巣、糞など)を指します。
    これらは生物自体の遺骸ではなく、生物の行動や生態を示す間接的な証拠です。

  • 印象(いんしょう)化石

    生物の外形や輪郭が、印象として岩石に残ったものです。
    例えば、植物の葉動物の羽の形が泥などに印され、その後硬化したものがこれにあたります。

  • 冷凍マンモスなど

    化石とは定義上、必ずしも石になっている必要はありません。
    冷凍マンモスの身体、骨、毛などは永久凍土の中に保存されていて、従来の化石とは異なる保存形態を取っていますが、これも化石の一種とみなされます。
    また、琥珀に閉じ込められた昆虫などもこれに該当します。

  • ミイラ化石:

    恐竜の皮膚が残ったまま化石化した状態などを指します。
    これは、特定の地質学的条件下で生物の遺体が乾燥し、その後、化石化の過程を経て保存されたものです。


ジェット(黒玉)こくぎょく

ジェットとは、黒色をしていて比較的軽く、磨かれた時に艶やかになる特性がある石です。

ジェットは古代の木々堆積し、長い地質的時間を経て圧縮され、化石化してできたものです。


それは ”炭化(たんか)” と呼ばれるプロセスを経て形成された石炭の一種であり、

主に炭素から構成されています。



また、ジェットは結晶構造を持たず、その原子が不規則に配列されている物質です。

ゆえに、

『ジェット』は、『琥珀』と同様に有機化合物から成る非晶質の物質である。



通常ならば分解、置換されてしまう炭素がなぜ残っているのでしょうか?
それには「炭化」が重要な役割を果たしています。

「炭化」とは
  1. 植物質の蓄積と埋没
    • 植物の残骸が、湿地や沼地などの水域に蓄積されます。
    • これらの環境では、水に覆われることで酸素との接触が制限され、
      また、地上よりも速やかに地層に埋没します。
    • これにより通常の腐敗プロセスではなく、炭化のプロセスを経ることになります。

  2. 微生物による分解
    • 酸素の不足した環境でも活動できる特定の微生物が、植物質の分解を行います。
    • この過程で、植物質から水素、酸素、窒素などの元素が徐々に除去され、
      炭素が相対的に濃縮されていきます。

  3. 熱と圧力の影響
    • 地層の深くに埋まった植物質は、地球内部からのと上層の圧力を受けます。
    • これにより、植物質の化学的構造が変化し、さらに炭素の濃縮が進行します。
    • この過程で、植物質は徐々に黒く硬化し、炭素の含有量が高い物質へと変化していきます。

  4. 石炭の形成
    • 最終的にこれらのプロセスを経た植物質は、
      「石炭」として知られる炭素に富んだ固体物質に変化します。


準鉱物まとめ

今回の「琥珀」と「ジェット」を鉱物の定義に当てはめると、

  1. 天然である。
  2. 特定の化学組成を持つ。
  3. 結晶構造を持つ。
  4. 無機固体物質である。

3と4に該当しません。


特に有機化合物である点が特徴です。



結晶構造を持たない ”非晶質” という点では、

以前に説明した ”ガラス質” も同様です。



この ”非晶質” の性質を持つ石は、主に3種類あります。

  1. SiO₂ が主成分の天然ガラス

    オブシディアン、モルダバイト、リビアングラス

  2. 有機化合物から成る非晶質

    琥珀、ジェット

  3. 珪酸球の集合体

    オパール

※オパールについては
「【第10回】石英の仲間たち」で詳しく説明しています。



最後に付け加えると、

「真珠」「マザーオブパール」「珊瑚」

”準鉱物” になります。



生物と鉱物の複合体のような特殊な存在で、

「生体鉱物(せいたいこうぶつ)」とも呼ばれます。



またの機会に詳しく説明します。






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